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HOT GAMES 佐野慈紀が斬る『SMBC日本シリーズ 第1戦 10月28日 福岡ソフトバンク 対 横浜DeNA』

28日より、いよいよSMBC日本シリーズがスタート。パ・リーグはCSでも変わらぬ強さを示した、王者・福岡ソフトバンクが順当に勝ち上がり、セ・リーグは3位争いを勝ち抜いた勢いそのままに、リーグ初めての3位からの“下克上”を成し遂げた横浜DeNAが、19年ぶりの舞台に歩みを進めた。NPBの歴史上、前身の球団含めて初めてとなる組み合わせでのシリーズ初戦は、10対1で福岡ソフトバンクが大勝。同試合のポイントを、佐野慈紀氏に分析してもらった。

——佐野さん、初戦はまさかのワンサイドゲームとなってしまいました。
「そうですね。短期決戦ですから、この試合のスコアを必要以上に捉える必要はないと思います。ソフトバンクは間違いなくいい勝ち方でしたけれど、この勢いを続けられるか。一方の横浜DeNAはこの敗戦の中で、2戦目以降の戦いのヒントを得ることができたかどうかが重要です」

——試合はまず立ち上がり、初回にともに走者を得点圏に抱えました。無失点にきっちり抑えた千賀投手と、1点を簡単に許してしまった井納投手。状態はどのように見ていましたか?
「千賀投手もめちゃくちゃいいというわけではなかったと思います。ただ、一方の井納投手の悪さは気になりましたね。阪神とのクライマックスシリーズの初戦で登板したときのような姿だったかなと。広島東洋戦ではいいピッチングをしていましたが、この日はまっすぐがシュート気味で、フォークもあまり落ちていませんでした。悪い時の井納投手ですよね」

——デスパイネ選手の先制タイムリーは、インコースを投げきれず、真ん中に入ったボールを捉えられたものでした。
「失投ですよね。初球、外のスライダーでストライクを奪い、嶺井捕手の要求は構えからしてインサイド高めだったと思います。逆球気味に真ん中高めに投げてしまいました。井納投手はこの日のような状態だと、インコースがなかなか使えないんですよね。ランナーは得点圏にいましたし、ボールでもいいカウントです。ただ、投げきれなかった。嶺井捕手の意思をしっかり理解できていなかったように思いますね」。

——続く2回にも失点を重ねてしまいます。
「長谷川選手のホームランでしたね。これも、バッターの左右は違いますけれど、嶺井捕手の要求はインコース。ボールカウントも3ボール1ストライクと悪かった中で真ん中高めに入ってしまった失投でした。正直、ここで井納投手を変えてしまったもいいぐらいの投球内容だったと思います。このあと、柳田選手にデッドボールを当ててしまったシーンが象徴的で、リリースポイントがバラバラでした。シュート回転して抜けてしまうボールが多いために、しっかり投げようとしたら引っ掛けてしまい当ててしまった。いいところがなかったですね」

——結果的に、マウンドに上がり続けた井納投手ですが、最後はイニング途中でマウンドを降りることになります。
「味方が5回表になんとか1点を奪い、迎えた直後の裏でした。正直、嫌な予感がしていたファンの方も多かったと思います。先頭へフォアボール。これが大量失点を呼ぶことになってしまいましたね」

——この回7得点で10対1となります。
「失投を逃さず捉え、得点を重ね続けた福岡ソフトバンク打線はお見事の一言ですね。どうしてもこういう展開になってしまうと、投手のほうに話が向きがちですが、2番手の田中投手が試合を壊してしまいましたね」

——2つの押し出し四球とタイムリー2本を浴びてしまいました。
「私が気になったのは、変わった最初のバッターへの初球です。長谷川選手のところで投入されましたが、代打で右の川島選手が出てきました。場面は満塁です。初球の要求は田中投手の得意球でもあるカーブ。ここは絶対、ストライクをとらなくてはいけなかった」

——結果、初球は低めに外れてボール。その後ストレートの四球で押し出してしまいます。
「初球で自分の首を絞めてしまいましたよね。バッターは代打です。しかも満塁ですから、簡単に速いボールを投げるわけにはいきません。打者心理を考えると、初球の遅い変化球には手を出しづらい。ピッチングを組み立てる意味でも、初球のカーブ要求に対し、まずは簡単にストライクをとらなくてはいけなかったと私は思います。キャッチャーからすれば、2球目はよりストレートを使いにくいものです。要求はスライダーでしたが、これもまたボールにしてしまい、3球目も同様です。最後は、もう打たれてもしょうがないと投げ込んだストレートが外れてしまいました。苦しい投球でしたね」

——結果的に、試合を決める場面となってしまいました。
「得点した直後だっただけにね。まあ、あそこでホームランを打っている長谷川選手に代打を出してくるソフトバンクの層の厚さというのもあらためて感じました。これだけ大差のゲームになると、両チームともに、途中から割り切って2戦目以降のための取り組みもできたと思います」

——ソフトバンクにとっては余裕のある展開の中、横浜DeNAにとっては、開き直っていろいろ試すことができた?
「そうですね。ソフトバンクは8回を投げた森投手が三振を2個奪うなど上々の投球で、このシリーズでもいけそうだなという感覚をベンチも含めて掴めたと思います。打線も6回以降はノーヒットでしたけれど、先頭を出して、送れる場面ではきっちり送るというシーズンと同様の野球でしっかり得点を重ねました。間違いなく、いい入りができたと思います。一方のDeNAは途中で嶺井捕手に替えて戸柱捕手を使い、最後には髙城捕手も代打で起用しています。このあたり、おそらく光山コーチの助言があったのではないかなあと感じますね。8回のマウンドでは砂田投手を起用したりと、初めての日本シリーズの舞台で、2戦目以降を睨んで“場慣れ”じゃないですけど、空気を感じさせることができた。これで2戦目がどうなるか、まずは次の試合に注目したいですね」

——ありがとうございました。


佐野慈紀(さの・しげき)
球歴:松山商業高→近鉄→中日→米独立リーグ他
現役時代、大阪近鉄バファローズのセットアッパーとして活躍。中継ぎ投手としては、日本プロ野球史上初の1億円プレーヤーとなった。NPB通算353試合登板。“ピッカリ投法”のパフォーマンスでもお馴染み。現在はBCリーグ・石川の取締役。愛媛県出身。右投げ右打ち。投手。