- プロ野球
- 高校野球
2017.08.25 15:43
【THE INSIDE】10年連続80万人以上を動員した夏の高校野球…大盛況の裏側に、観客の意識の変化?
今年の夏も暑さをものともせず、真夏の甲子園球場でさまざまなドラマが展開された。そして、連日のように甲子園には多くのファンが詰めかけた。
大会前から異常というくらいにメディアに取り上げられ続けていた早稲田実が出場しなかったものの、そのことの影響は感じなかった。
大会としては、開幕そのものが雨で1日延びたが、強豪が相次いで登場した4日目からは連日「満員通知」が出される盛況だった。観客動員ということで言えば、今年も80万人を突破し、10年連続80万人以上を動員した。
応援のアルプス席は常に満員
わずか2週間の期間に、それだけの人が甲子園を訪れているのだからすごい動員力だ。そして、その現象そのものがまさに夏の風物詩であり、高校野球が(特に甲子園での高校野球)日本の文化として定着している証でもある。
甲子園を訪れる観客の多くは、もちろん応援したいチームがあり、見たい学校があるということであろう。しかし、それだけではない。ある意味では、大阪にあるUSJなどのテーマパークと同じような位置付けとして、イベント会場として、「まずは足を運んでみよう」という、そんな意識の観客も非常に多かったのではないだろうか。
つまり、甲子園というテーマパークに遊びに来ていて、そのアトラクションのメインとして高校野球があって、それを見ているというスタイルの人も少なくないと思う。だから、特にどこに勝ってほしいとかそういうものではなくて、「話題になっている甲子園に行って高校野球を見るか」というものなのではなかろうか。
朝一番の電車で来ても、既に甲子園球場の周辺をぐるりと人が囲んでいる状態を目の当たりにするが、入場するために並ぶことも苦痛ではないわけだ。つまり、その時点ですでにイベントそのものが始まっているという感覚なのだ。
3時間以上並んで待って、7時開門でようやくスタンドに入って席を確保したら、やっと座れる。まずは一息ということになるのだが、そこへ笑顔を振りまきながら「ビールいかがですかぁ」と若い女の子がタンクを背負ってやってくる。目が合うと、明るく微笑みかけてくれる。
考えてみれば、午前7時からビールを積極的に売っているイベント会場なんて日本中どこを探しても他にはないだろう。それが、ごくフツーに行われているところにも甲子園という場の不思議さがある。
しかも、「純粋な高校球児の汗と涙のドラマ」が大前提となっている会場である。グラウンドの選手たちはストイックなまでに自分を律して、来る日も来る日も練習に明け暮れて、野球漬けになりながら、やっと掴んだ檜舞台である。そこで思いのたけをぶつけていく姿に多くの人は感動し、自分の人生の何かを投影しながら見つめているのである。
準優勝した広陵(広島)ナイン
そんなことは、もう何十年も言われ続けてきた高校野球の魅力であるし、分かり切っていることである。と言うよりも、そういうモノだと思って見つめている。それが、甲子園の高校野球でもあるのだ。だから、「……であらねばならない」ということを思い込めて、語っていく人も多く存在してくるようにもなるのだ。
しかしながら、少し冷静に見つめてみると、そんな高校球児を見つめている多くの人は、朝からビールを飲みながら佇んでいるのだ。そのアンバランスさもまた、高校野球の魅力であり甲子園文化でもあるのだが…。
そして、プレーボールの午前8時、あれだけ待っていたはずの試合なのに、プレーボール早々に心地よさそうに眠りについていく人の姿も多く見られる。並び疲れているのだろうか。それにしても、ここで眠ってしまっては、果たして何を見に来ているのだろうかとも思ってしまうのだが…。
さらには、今年メディアでも取りざたされたのが、「タオル回し」の応援スタイルである。これも試合終盤、眠りから覚めた人が周囲の歓声に起こされたかのように反応する。そして、とりあえず負けている方のチームに肩入れして、ブラスバンドの応援に合わせてタオルを回すというものである。
本来はニュートラルに位置するはずのネット裏中央席の観客たちも、ブラスバンドに煽られるかのように、ぐるぐるとタオルを回すシーンが多く見受けられた。別に、それまではそのチームに対して思いを入れて応援していたというのでもない人たちが、突然にそうした行為に出ていく。それこそまさに、イベントに参加しているという気分になっているからに他ならない。
各校の特徴が表れる応援席
プレーしている選手の思いや精神的な状況などはまるで意識することもなく、ジェットコースターでスリルを味わったりすることや、ロックコンサートでミュージシャンと一緒になって踊っていることと同じ感覚で、タオルを回しているのではないだろうか。
そんなことに対しての批判的な意見が出てきたのは、高校野球を見つめる側の良識と言ってもいいではないかと少し安堵もした。
しかし、そんな現象も含めて今年も甲子園の高校野球は大いに盛り上がった。そして、花咲徳栄の埼玉県勢初優勝という形でのフィニッシュにより、来年の100回大会へとつながっていくことになった。記念すべき100回大会で、埼玉県は自信を持って2校の代表を送り出せるであろう。