- 大学野球
2022.10.09 18:19
高3ベンチ外から名門立大のレギュラーへと成長を遂げた“努力の鬼” 道原慧(立教大)【時は来た!ドラフト指名を待つ男たち 大学生編】
“努力の鬼”そんな言葉が彼には似合う。
名門・立教大の背番号「1」、50m5秒81の俊足を生かしたアグレッシブな走塁と、遠投110mの強肩から放たれるレーザービームが魅力の外野手だ。
駒大苫小牧高時代は、3年春に夢であった甲子園の試合前ノックで右目下に味方の送球が当たるという悲劇が襲った。その影響は、3年最後の夏にベンチに入れないことだけでなく、進路にまで及ぶことになる。
同期の山田健太(大阪桐蔭高)や、宮海土(國學院大學栃木高)らはアスリート選抜で入部している中、道原は、自由選抜入試を経て、さらにセレクションといういわばオーディションを受け、立教大野球部に入部することを許された。
そんな当時を「挫折だとは思っていない。すごい選手がたくさんいる中でもいつかは絶対に勝ちたいと思っていた」と振り返る。その言葉の端々から「常にNo.1を目指せ」という父の教えの影響を受けた根っからの負けず嫌いが伝わってきた。
だからといって、それだけで簡単に活躍できるような甘い世界ではない。
1年からリーグ戦で活躍する同期の影で、1・2年次はひたすら「活躍したい」という目標だけを見据え、雌伏の日々を過ごした。空いている時間を見つけては誰よりも多く素振りをし、率先して声出し・声がけをし、常に全力疾走した。それは「手を抜いたことはあるか」という質問に対して「ないですね」と即答できるほどだ。
こうした努力の成果は衝撃的な形で表れることになる。レギュラーを掴んだ3年春リーグ初戦で先頭打者ランニングホームランを記録。ダイヤモンドをがむしゃらに駆け抜けパンっと手を叩き喜びを噛み締めた。その表情は明るい期待に彩られていた。3年春は打率.316、チームトップの5盗塁という成績を残した。その年の冬には、入学時は遠い存在だった山田、宮とともに大学日本代表候補強化合宿にも召集された。
だがその後は厳しいマークに遭い、3年秋は打率.262、今春も打率.226に抑え込まれた。秋は10月5日現在で打率こそ.261だが、走者一掃となる三塁打を放つなど復調を見せている。
道原は、最高学年になった今でも「練習では1番へたくそだと思ってやる」という言葉通り、日々の努力を惜しまない。加えて、誰にでも平等に接していて、話をするときや監督の話を聞くときは視線を外さず、丁寧に言葉を紡ぎながら話している。「両親が背中で見せてくれていたから、今の自分がいる」と周囲への感謝も忘れない。
練習熱心、どんな時も誠実で謙虚なその姿勢を、彼は「当たり前で小さいこと」だと謙遜した。
かつて”努力の天才“と呼ばれたイチロー選手が残した有名なフレーズ「小さなことを積み重ねることが、とんでもないところへ行く、ただ一つの道」を体現する道原は、己の武器に磨きをかけ、信じる道を突き進んだ先でどんな景色に出逢うのだろうか。彼の成長から目が離せない。
文=後藤るみ
写真=高木遊