- プロ野球
2019.08.31 14:59
1日6杯からナンバー1へと導いた「売り子ノート」の存在【野球女子 vol.19】
福岡ソフトバンクホークスの本拠地・ヤフオクドーム。ドーム球場ということもあり屋外の球場と比べれば、夏場でも涼しく過ごしやすい。しかし、スタジアム内の熱気は屋外球場に負けていない。それはスタジアムで働くスタッフたちの熱量も同じこと。
その熱量を測るべく、ヤフオクドームで汗を流すビールの売り子さんに話を聞いてみた。
今年が3シーズン目となるさあやさん。主に三塁側やビジター応援席付近を担当しているという。ビジターエリアは相手球団によって来客するファンは異なる。なかなか常連のお客様をつくることは難しいのではないだろうか。と、いらぬ心配をしてしまう。
しかし、さあやさんによればそんなことはまるでないという。「ビジターエリアも同じ方が来られるんです。それぞれの球団のファンの方々に憶えていただけるよう、2年前から頑張りました」とのこと。各球団ごとに固定のお客様をつかんだわけだ。
ヤフオクドームはビールの売り子さんも多く競争が激しい。そのため、比較的売り子さんが少ないビジター側を回るようになったとのこと。
こういった工夫は先輩から教わったものではなく、自身で考え抜いた結果のようだ。それは過去の体験から来ている。
「高校生までの10年間、走り幅跳びをやっていたんです。そのとき、1センチでも遠くに飛ぶために『どうやったらいいかな』って考えてノートを毎日つけてました。それと売り子の仕事が似てるんです。努力したことが結果に繋がるというか。今も売り子ノートをつけています。それがやりがいにもなっています」とのこと。
野球の世界では「〇〇ノート」というのはよく聞くフレーズでもある。有名なところでは野村克也元楽天監督の「野村ノート」だろうか。プロ野球だけでなく、高校野球の世界もそうだ。名前は様々であるが、「野球ノート」を課している高校も多い。大谷翔平(エンゼルス)や菊池雄星(マリナーズ)といったメジャーリーガー達もそれぞれつけていた。
同じように売り子さんの世界にも「売り子ノート」は存在するのである。
ちなみに、さあやさんは中学生時代にジュニアオリンピックで全国3位になったほどの実力者。1センチに懸ける思いが相当なものだったことは想像に難くない。そのときと同じように、今はビール1杯に懸けているのである。だからこそ、名前は変われど習慣は変わらず「ノート」が続いているのだろう。
その結果、1年目には新人王に輝き、今年も4ヶ月連続で売上ナンバー1を記録している。まさに努力は実を結ぶ、である。
今でこそナンバーワンとなったさあやさんだが、もちろんはじめから売れに売れたわけではない。1年目には1試合で6杯しか売れなかったこともあったという。そういった苦しかった時期に負けることなく、向上心を持ち、売り子ノートをつけながら一歩ずつ前に進んでいったのだ。
プロ野球には多くのドラマやストーリーがある。それは、なにも選手に限ったことではない。売り子さんひとりひとりにも、熱を帯びたドラマが存在するのである。
そう考えると、何気なく売り子さんから買うビールやソフトドリンクが、いつもより美味しく感じるのではないだろうか。
記事:勝田聡