- プロ野球
2019.10.13 12:00
アンドリュー・アルバース(オリックス)が語るカナダ野球 (後編)【WORLD BASEBALL vol.32】
プロ12年、これまで5か国でプレーしてきたアルバース選手が、母国カナダのチームでプレーしたのは2度。故障のためドラフト指名を受けたパドレスをリリースされた翌年の2010年に独立リーグ、カンナムリーグのケベック・キャピタルズで1シーズンを送ったほか、韓国のハンファ・イーグルスでプレーした翌2015年には、あこがれのブルージェイズと契約した。
今回はアルバース投手のプロ入り後、カナダ代表となってマウンドに立つ話を中心に紹介していく。
<前編はこちら>
アンドリュー・アルバース(オリックス)が語るカナダ野球 (前編)【WORLD BASEBALL vol.31】
ブルージェイズのテレビ中継と父親とのキャッチボールをきっかけに野球を始めたアルバース少年の夢はもちろんプロ野球選手。しかし、それは多くの野球小僧が抱く漠然とした夢で、その夢が具体的な目標になったのは大学に進学した時だという。
「野球選手になる夢は、もちろん野球を始めたころからあったよ。もちろんブルージェイズに入団(笑)。ブルージェイズかエクスポズか。カナダの野球少年にとって、両チームは特別な存在だったからね」
実は、大学に進学せずにプロになるチャンスはあった。高校卒業時に、彼はブリュワーズから12巡目でドラフト指名を受けている。しかし、この時は憧れのプロ入りを断った。
「まだプロ入りには早いと思ったんだ。まず大学に行って勉強をして、大学リーグでプレーしてからでも遅くないと思ったんでね。大学へ行けば寮に住めるし、学校からのケアも受けることができて、みんなと一緒にやっていける。
18歳という早い時期にマイナーリーグに行って、すべてを自分ひとりでやっていく自信がなかったんだ。そういう状態で成功できなかったら、野球人生も終わってしまうという不安もあったしね。その時は、仮に指名した球団がブルージェイズであっても、行ってなかったね」
18歳の少年が、年上の選手に交じって旅から旅へのマイナー生活を送ることのリスクを彼は自覚していた。アルバースはこう続ける。
「日本だったら1巡目であろうと、下位であろうと、高卒でドラフト指名されれば、だいたい7、8年は同じチームでプレーできると思うんだけど、アメリカではトップ3に入っていないと、もう次の年には違うチームに行ったりということも珍しくないからね。仮にドラフト3巡目以内だった判断も違っていたかもしれないけど。契約金の額も変わってくるしね」
この話を聞いている際、アルバースの口からは、「アメリカでは」という言葉が出てきた。彼らカナダ人の中で、スポーツの世界は、母国カナダとアメリカが一体化しているのだろうか?実際彼の進学先もアメリカのケンタッキー大学だった。
「基本的にそうだね。カナダの野球は、いろんな面でアメリカの考えがベースになっているね。だからアメリカでプレーすることと、カナダでプレーすることには僕の中ではあまり違いはなかった。結局、言葉が通じるからね。そういう点では、ベネズエラのウィンターリーグも同じだったよ。
英語を話す選手もいたし、彼らが話すスペイン語はフランス語と同系統の言葉だからカナダ人には理解しやすいんだ。カナダ東部はフランス語圏で僕はそれも話せるからね。その点、やっぱり韓国や日本でプレーするときは、言葉の点で自分は外国人選手なんだなという気持ちになるかな」
大学卒業後、2008年ドラフトでアルバースはパドレスから10巡目指名を受け、プロの世界に足を踏み入れるが、故障もあり、たった2年でリリースされてしまう。そして、2010年シーズンをカナダの独立リーグ球団、ケベック・キャピタルズで送ると、翌年、ツインズに入団する。
そして、この年のシーズン中行われたパンアメリカン大会とオフに開催されたワールドカップでカナダ代表のユニフォームに袖を通す。彼はマイナーでのプレーと代表でのプレーでは心持ちが全く違ったという。
「あのシーズン、ツインズのマイナーでプレーしていたんだけれど、チームは個人成績を求める人たちの集団という印象だったね。僕もチームの勝敗より自分の結果の方が大事だったよ。でも、ナショナルチームに選ばれると、国のために戦うという気持ちでみんないるので、個人成績を求めない。とにかくみんなで一緒に国に栄誉を、という気持ちでひとつになって戦うんだ」
そういう国際舞台でカナディアンたちがとりわけ闘志を燃やすのが、「ビッグ・ブラザー」と彼らが呼ぶアメリカとの対戦だ。普段は意識することのない「国境」だが、国際大会となるとカナディアンたちの意識にそれが強烈に浮かび上がってくる。
「野球だけではなく、どのスポーツにおいても、アメリカのほうが上だと思われているからね。それだけにアメリカとの対戦では一泡吹かせてやろうっていう気持ちになるんだ」
マイナー生活が長かったアルバースだが、ほんの一瞬、少年の頃からの夢をかなえたことがある。2015年、ブルージェイズと契約した彼は、このシーズン1試合だけだが、本拠ロジャースセンターのマウンドに登っている。
「間違いなく僕の野球人生で特別な出来事だった。その日にメジャーに呼ばれて、マウンドに登って、打たれて、すぐ降格になったという、本当に1日だけの経験だったんだけど、子どもの頃からの夢がかなった瞬間だったね」
その時着たユニフォームは、もちろん大事にとっている。
「僕は、プレーしたすべてのチームのユニフォームをもっているんだ(笑)。球団によっては自分で買いとらなければならないんだけどね。でも、ブルージェイズのユニフォームは、いくら出してもその価値があるよね」
アルバース投手の現在の夢は、それらを飾れる大きな家を建てることだそうだ。
残念ながら、持病の腰痛に悩まされ不本意なシーズンを送ったということもあり、アルバース投手は、今回のプレミア12は辞退し、来期に向けて英気を養うという。カナダには是非とも来年の東京五輪に出場してもらい、我々はそこでアルバースの雄姿を眺めることにしよう。
文・写真=阿佐智