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アンドリュー・アルバース(オリックス)が語るカナダ野球 (前編)【WORLD BASEBALL vol.31】

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 10月1日、ポストシーズンを前にして、そのポストシーズン後に行われる世界大会、WBSCプレミア12の侍ジャパントップチームのメンバーが発表された。

 稲葉監督率いる今回の代表は、この大会に備え、10月21日から宮崎で合宿に入り、NPB球団と2試合の練習試合を行った後、沖縄へ移動、10月31日、11月1日の両日、那覇でWBSCプレミア12の予選ラウンドをソウルで戦うカナダ代表と大会に向けた最後の強化試合、「ENEOS侍ジャパンシリーズ2019」を戦う。

 トップレベルのカナダ代表と日本が戦うのは、2008年北京五輪の予選リーグ戦以来実に11年ぶり。メジャーリーグにトロント・ブルージェイズが加盟しているなど、スポーツの世界では、なにかとアメリカに埋没している印象のあるこの国であるが、カナダの野球とはどのようなものなのだろうか?

 今シーズン、オリックス・バファローズの先発投手としてプレーしたアンドリュー・アルバース選手に話を聞いた。彼は、2008年にパドレスからドラフト指名を受けプロ入りした後、2011年のパンアメリカン大会とIBAFワールドカップ、2013年のWBC、2015年のパンアメリカン大会とプレミア12、そして2017年のWBCとプロ主体の代表チームに6回選出されている代表常連選手である。

オリックス・バファローズの先発投手としてプレーしたアンドリュー・アルバース選手

 アルバース投手は、カナダ中部サスカチェワン州出身。生まれそだったノースバトルフォードの町はテレビが2チャンネルしかなかったほどの田舎町だったという。

「そこで見たトロント・ブルージェイズの試合が野球との出会いだね。父が野球好きで、衛星放送が出てきてからは、スポーツチャンネルと契約したんで、すっかりブルージェイズのファンになってしまったよ。

カナダではテレビで放映されているのはブルージェイズの試合ばかりなんで、みんなブルージェイズファンだよ。ただバンクーバーなど、西部の人は、国境を越えてすぐにシアトルの町があるからマリナーズファンも多いけど。実は僕もケン・グリフィーのいたマリナーズもお気に入りだったんだ」

 北米の野球少年は、地元マイナーリーグチームにあこがれて野球を始めるということが多いが、彼の場合は、マイナーリーグのチームすらない小さな町出身とあって、父親の影響で7歳の時、ボールを握り始めた。

「ただサマーリーグというのがあったけどね。お客さんを集めて試合していたけど、レベルは高くなかったね。なにしろ、17歳の僕でもそこでプレーしていたくらいだから」

 カナダの多くの野球少年がそうであったように、ブルージェイズともうひとつのカナダ球団だったモントリオール・エクスポズにあこがれていた少年は、やがて成長し、アメリカへと旅立ってゆく。

オリックス・バファローズの先発投手としてプレーしたアンドリュー・アルバース選手のインタビューに答えている所

「最初はホッケーと両方やったんだけど、野球のほうが進学するのに有利だと思ったので、最終的には野球を選んだんだ。もっとも、バスケットボールやバドミントンなど、シーズンによってほかのスポーツも楽しんでたけど。高校時代はとにかくスポーツで忙しかったね」

 カナダには日本のような「高校野球」はない。基本的には、学校には部活というものがないのだ。カナダ野球連盟傘下のクラブチームに入り、年齢別にカテゴリー分けされた大会に出場する。

 全国大会はあるが、高校世代に当たるのはU18のカテゴリー。高校野球と同じく、予選を経て各州のチャンピオンチームが集うナショナルチャンピオンシップと州選抜チームによるカナダカップという対抗戦の2つの全国大会がある。もっとも、日本の甲子園のように大勢の観客はいないし、テレビ放送もない。

「日本に来て、高校野球を知ったんだけど、アメリカのバスケットボールのトーナメントとすごく似ているなと思ったね。1回負けたら終わり。すごくエキサイティングだね。カナダでは、U18世代のスポーツは、一番人気のアイスホッケーでもそんなに盛り上がることはないんだ。

僕の育ったサスカチュワンでは野球よりホッケーの方が圧倒的に人気だけど、甲子園みたいな全国大会もないし、クラブチームでプレーするだけだからね。もっとも、僕は、ホッケーの方は高校に入る前にやめてしまったんだ。だって、あまり得意じゃなかったから(笑)」
 
 アルバース投手の話を聞いて感じたことは、日本の高校球児と比べ、カナダの高校生はすべてをエンジョイしているということだった。野球は、数ある選択肢のひとつにすぎず、自分の判断で、さまざまなスポーツをし、勉学にもはげみ、自らの人生を切り開くツールとして野球が使えるようならそれを使う。

 寒冷な荒野を切り開き建国したカナディアンらしい考え方を彼らは幼少期から身につけているのだろう。そのことは次回に述べていく、彼のプロ入りの経緯に現れている。

 次回はプロ入り後、あこがれのブルージェイズのマウンドに立ったことや、カナダ代表でプレーした印象などについて、聞いていく。

文・写真=阿佐智