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2019WBSC プレミア12開催球場の今を紹介 ~韓国初の「ドーム球場」高尺(コチョク)スカイドーム~【WORLD BASEBALL vol.30】

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 最近、「ボールパーク」がブームらしい。かつてのシンメトリックなスタジアムのフォルムは古色蒼然とした過去の遺物と化し、フィールドは天然芝、スタンドは非対称の多様性に富んだ様々な形をし、もちろんオープンエア。仮に屋根がついても、それはスライド式で開いたときにはフィールドの外にしまわねばならない。

 「未来型」のドーム球場は退屈な代物としてすっかり時代から取り残されたような感がある。しかし、そうだろうか。雨に濡れる心配なく観戦でき、おまけに冷暖房完備。「観る」という観点に立てば、これほど心地いいのものはないのではないか。

 そんなことを考えたのは、この春、韓国の球場を巡った時だ。日本より北に位置するこの国の春先は寒い。寒風吹きすさぶ中、ジャンパーを着こんでの観戦は決して心地いいとは言えない。そういう中、ソウルに新しくできたドーム球場での観戦は寒さに震えることなく、心地よく観戦できる。

新ドーム球場、高尺(コチョク)スカイドーム

【新ドーム球場、高尺(コチョク)スカイドームの外観】

 この新ドーム球場、高尺(コチョク)スカイドームは、ソウル中心部から電車で40分くらいのところにある九老(クロ)区に位置する韓国初のドーム球場である。総座席数はドーム球場としては少なく、2万席を切っているが、現在の韓国プロ野球の動員数を考えるとちょうどいいと言えるだろう。2015年のプロリーグ終了後に竣工、11月のプレミア12に備えた韓国代表対キューバ代表戦で本格的に稼働した。

 ソウルにはかつて町の中心に東大門(トムデムン)球場があった。1982年、韓国プロ野球が産声を上げたのもこの球場でのことだった。同年夏には1988年のソウル五輪を前にして市内を流れる漢江のほとりに蚕室(チャムシル)球場が会場、プロ野球のメッカとして現在も韓国野球の中心的存在となっている。

 また五輪の翌年、1989年には郊外に木洞(モクトン)球場が開場し、アマチュア専用球場として使用されることになった。しかし、2006年に東大門球場が閉鎖され、2008年からは新たにプロリーグに参入したウリ(現キウム)・ヒーローズの本拠としてここが利用されるようになると、ソウル市内の球場不足が顕在化するようになり、ソウル市当局によって新球場建設が模索された。

 これにより九老区に新球場建設が建設されることが決まったが、野球人気の高まりを受けドーム化が決定、韓国初のドーム球場が完成したことによって、寒冷地である韓国でのプロシーズン前後に行われるトップレベルの国際大会の開催が可能となった。

 地上を走るメトロの車窓からは、宇宙船を思わせるような楕円形の銀色の外観が印象的である。収容人数の少なさもあり、内野スタンドと外野スタンドはそれぞれ独立しているのが特徴的だ。もちろん両者の間は1,3塁側とも通路で結ばれている。

新ドーム球場、高尺(コチョク)スカイドームの内野スタンドと外野スタンド

 もともとアマチュアの使用を前提に作られたところにドーム化もあり、プロ球団ヒーローズを誘致したこともあり、開場当初は、電光掲示板が小さい、通路が少なく座席が連なりすぎ、などの批判があったと聞くが、実際にスタンドで観戦してみると、そのようなことはとくに気にならなかった。先述の通り、春先の観戦とあって、エアコンのありがたさが身に染みたくらいだ。

 ボールパークも悪くないが、春秋は寒く、夏場は雨が多いという韓国にあってその利点を最大限に生かせるこのドーム球場は今後も、この国における国際大会のメイン球場として機能していくことだろう。

新ドーム球場、高尺(コチョク)スカイドーム

文・写真=阿佐智