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韓国はなぜ国際大会に強いのか? 日韓両国の野球を知る門倉健コーチに聞いてみた【Global Baseball Biz vol.32】

韓国球界でプレーとコーチ経験を持つ、中日ドラゴンズ二軍投手コーチ・門倉健さん

【写真:戸嶋ルミ】

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 2019年11月に開幕したWBSCプレミア12もオープニングラウンドが終わり、前回王者の韓国は今大会も好調な滑り出しを見せており、オープニングラウンドを1位通過して迎えたスーパーラウンド初戦で、強豪アメリカ相手に5-1で勝利している。

韓国チームのその強さ、裏側には何があるのだろうか。彼らの弱点とは? 前回に引き続き、韓国球界でプレーとコーチ経験を持つ、中日ドラゴンズ二軍投手コーチ・門倉健さんにお話を伺った。

>インタビュー前編はこちら
中日ドラゴンズ二軍投手コーチ・門倉健が語る「あの頃のKBO」~鍛錬によって磨かれた肉体と精神の強さ【Global Baseball Biz vol.31】

※取材日は2019年10月下旬

■なぜ大舞台に強い? 兵役や報奨金など韓国ならではの理由

――なぜ韓国ナショナルチームは国際大会に強いのでしょうか

「日本と韓国では、勝利への”意識の違い”が大きいですね。韓国では『オリンピックでメダルを獲得する』か、『アジア大会で金メダルを獲得する』と兵役が免除されるので、国際大会に対する思い入れは他国とは異なる熱量があります。また、韓国ではメダルを獲得すると国から報奨金を貰えるということもあり、モチベーションがかなり高いですね。この点も日本代表とはかなり意識が違うなと感じました」

――代表選手のモチベーションが高いということですが、これは国際大会を控えたシーズン中からのことでしょうか

「国際大会を控えているシーズンだと、選手たちは代表に選出されたくて皆アピールに必死ですね。普段とは意気込みが全然違います。辞退する選手もいないですね。シーズン中の勤続疲労が残っていようと、選出されたからには絶対に出ようとします。そのへんは日本とは意識が異なりますね、みんな喜んで参加しているイメージです」

「プレミア12」 米国―韓国  優勝を果たし、記念撮影する韓国ナイン=東京ドーム

【写真=共同通信社】「プレミア12」 米国―韓国  優勝を果たし、記念撮影する韓国ナイン=東京ドーム

また、選手個人だけでなく韓国球界の勝利への執念を感じたエピソードがあるという。

「数年前に韓国が国際大会の予選で敗退してしまったとき(※1)、KBOは既存のボールを一掃して国際大会使用球に近いものに替えたということがありました。それだけでなく、マウンドの高さや硬さも国際大会を見据えたものに修正したりして……勝利への執念を感じました。それだけ『国際大会で勝つ』ということに重きを置いている国なんだなと」

■日本にあって韓国にないもの 意外な弱点とは

 韓国では様々な理由から代表選手個人のモチベーションが高く、KBOも国際大会を見据えた規格の用具を使用するなど、国際大会への対応は万全なように思われる。そんな彼らに弱点はないのだろうか? それについて、門倉コーチは意外な点を口にした。

「(韓国人選手は)体が硬い人が多いんです。日本人選手は柔軟なので、肘のたたみ方がうまいために内角に来た球もうまくさばけるんですが、韓国人選手はあまり得意ではありません。長打タイプは居ても巧打タイプは多くないですね、イ・デホは特別でしたが」

【写真:共同通信社】オープン戦でアピールを続けるマリナーズとマイナー契約の李大浩(イ・デホ)

【写真:共同通信社】オープン戦でアピールを続けるマリナーズとマイナー契約の李大浩(イ・デホ)

「来日した助っ人外国人選手が一番多くホームランを打つボールゾーンは腕の伸びたところなんですが、これは韓国球界でも同じです。韓国人選手は、腕が伸びたところに来た球や高めに浮いた球は力強く打ち返すことができます。でも、体の硬さから、腕が縮こまった内角はうまく対応できないことが多い。そこを日本人投手特有の緻密なコントロールと投球術で攻める、という策はありますよね」

■キム・ソングンと星野仙一 二人の名将から得たものを今の若手へ

 日本で4球団・韓国で2球団を経験し、日韓の両球団で指導経験を持つ門倉コーチ。選手たちを指導する上で大切にしていることは、SKで学んだ練習の重要性、それと”星野仙一監督の言葉”だという。

「星野監督時代、満員のナゴヤドームで大敗したことがあったんです。試合に敗れてベンチからロッカーに下がるとき、選手全員が監督に呼ばれて『お前ら(客席を)見てみろ』って言われたんですよ」

そのとき、星野監督はこう言ったという。

『今日これだけたくさんのお客さんたちが球場に来てくれている中で、お前らはこんな試合をしたんだ。この中には、今年一回しか球場に来られない人もいる。そんな人もいるのに、お前らはこんな試合をした。そんなことは、もう絶対にしたらだめだ』

プロ野球セ・リーグで11年ぶりにチームを優勝に導いた中日監督の星野仙一(ほしの・せんいち)さん

【写真:共同通信社】プロ野球セ・リーグで11年ぶりにチームを優勝に導いた中日監督の星野仙一(ほしの・せんいち)さん

この星野監督の言葉から「たとえ二軍戦であっても、お客さんは時間を割いて観に来てくれているのだから、プロとして恥ずかしいプレーはしてはいけない。そのためにはしっかりとした準備や練習をしなくては」と、選手たちに常日頃から伝えているそうだ。

そして練習は、”一球も無駄にさせない”のだという。やるんだったらしっかりやる、妥協はしないという姿勢は、SKワイバーンズ時代に師事したキム・ソングン監督のエピソードを彷彿とさせる。

「今年のプレミア12は、中日からは大野雄大投手しか選出されませんでしたが、もっとたくさんの選手を国際大会に送り込みたいと思っています。自分は幸運にも日本で4球団、韓国で2球団を経験させてもらいました。その中で得た経験や巡り合った指導者の方々から学んだことを今の選手たちに還元して、楽しんで野球をして且つ国際大会でも活躍できる選手を育成出来るように指導していきたいと思います」

※1:2013年と2017年WBCで韓国は1次ラウンド敗退

取材協力:中日ドラゴンズ
文:戸嶋ルミ