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日本野球の”安全面も世界レベル”に 元プロ野球選手だからこその想い【Global Baseball Biz vol.18】

元プロ野球選手の内藤雄太さん

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 プロ野球を観戦していて、ヘルメットの頬から顎にかけて取り付けられたパーツを見て、「おや?」と思った人もいるのではないだろうか。”フェイスガード”というものである。NPBではここ2~3年ほどの間に利用者が急増した。

 そもそもこのアイテムは、どういった性能があるものなのか。プロ選手の間で急速に普及した理由とは? そこには、一人の元プロ野球選手の「日本野球の安全面も”世界レベル”に」という願いが込められていた。

■MLBでの凄惨な事故から利用が広まったフェイスガード

 東京都台東区浅草橋にあるカシマヤ製作所を訪れた。そこには、元プロ野球選手の内藤雄太さんがいた。内藤さんは2005年ドラフトで横浜ベイスターズから3位指名を受け入団。2012年オフに現役を引退した。

 現在は、玩具のほか野球用具を取り扱っているカシマヤ製作所で営業マンとして働いている。その取扱商品の中にフェイスガードの「C-FLAP」があるのだ。

「これはアメリカのマークワート社製の「C-FLAP」という製品で、アメリカでは実に30年以上も前からあるものなんです。C-FLAPを装着することで、衝撃を軽減することができます。すごく簡単に言うと、C-FLAPなしでの衝撃が10だとしたら、装着後は4くらいにまで減らせるとされています。選手それぞれの打撃フォームに合わせて取付角度を微調整することができて、視野も妨げられることはありませんし、より安全性も望まれます」

アメリカのマークワート社製の「C-FLAP」

「この製品がMLBで普及したきっかけになったのは、ジャンカルロ・スタントン選手への頭部死球の一件でした」

 2014年9月、当時マーリンズにいたスタントン選手は、ミラーパークでのブリュワーズ戦で左頬への死球を受け救急車で搬送される。そしてそのままシーズンを終えることとなったのだ。

 この衝撃的な事故に、ファンやチームスタッフはもちろん、同業者である選手たちはとてつもない恐怖を感じたことだろう。スタントン選手は翌シーズン以降はフェイスガードを使用するようになった。それ以前にも使用していた選手はいたが、事故以降の現在では多くの選手が使用するようになった。

「NPBでは、丸佳浩選手(現・読売ジャイアンツ、使用開始当時は広島東洋カープ)が早くからC-FLAPを使っていました。広島の選手はC-FLAPの浸透が早かったですね」

アメリカのマークワート社製の「C-FLAP」

 ちなみにフェイスガード自体は、近鉄バファローズのチャーリー・マニエル選手やフリオ・ズレータ選手、秋山幸二選手が使用していた。

 現在国内で使用されているフェイスガードは、C-FLAPの他に国内スポーツメーカー製のものや、アメリカのローリングス社製のものなどがある。丸選手のほかに早くからフェイスガードを導入した吉田正尚選手(オリックス・バファローズ)は、ヘルメットもフェイスガードもローリングス社のものを使用している。

■「検査基準は昭和のままなんです」

 NPBや学生野球で使用されているヘルメットの多くは、一般財団法人製品安全協会の定めた「SG規格」の認定工場で製造されている製品だが、衝撃吸収性能の検査は108キロ(実際には30m/秒)である。これは、昭和49年11月に制定されたものから改定されていない。内藤さんはこのことを現役時代は知らずに過ごしていたという。そして、現在も知らない選手は多いと言う。

「僕も現役時代は『ヘルメットさえ被っていれば大丈夫だろう』って考えていました。でも、今思うとゾッとしますよね。学生野球はもちろん草野球ですら108キロ以上の投球は驚くことではないですし……」

C-FLAP

 先に挙げた吉田正尚選手が使用しているローリングス社のヘルメットは、MLBの認定商品で、MLBの選手は皆ローリングス社製を使用することが義務付けられているそうだ。アメリカの検査基準は日本より格段に厳しく、現行モデルのヘルメットの衝撃吸収性能の検査基準は100マイル(約160キロ)である。

 更に2020年シーズンからは製品がリニューアルされ、検査基準が105マイル(約170キロ)に引き上げられた。アメリカが野球先進国たる所以は、こういったところにもあるのだ。

■世界から取り残されつつある日本球界の安全基準

「近年は投手レベルが上がって球速がどんどん速くなっています。アメリカではプレーをする選手の安全を守るというのが命題となっていて、製品会議などでは必ず議題に上ります。アメリカは訴訟大国なので、安全対策も対応が早い。でも、結果的にそれによって守られる選手がいるのなら悪いことではありませんよね」

 近年の野球の技術レベルの向上は目覚ましい。日本でもちょっと前までは150キロを投げれば大騒ぎしていたはずなのに、今では”そのくらいは当たり前”となった。日進月歩で向上する日本の野球技術に呼応するように、球場内のエンタメなど”観客の視界に入る部分”はどんどんリニューアルされていったが、一方で選手の安全を守る基準に大きな進化は見られない。内藤さんはそれを危惧している。

【写真提供=共同通信】7回、死球を受けた広島・会沢=マツダ


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「危険球は当てられた方は当然痛いけど、当てた方も辛いと思うんです。それでイップスになって、選手生命が終わってしまったという人はプロ・アマ問わずいることでしょう。それによって日本球界の未来が寂しいものになってしまうのは、もったいないことです。誰も責められない悲しい事故が少しでも減ってほしくて、今はこのC-FLAPの必要性を伝えています」

 アメリカの安全対策を日本に伝播することは、容易なことではない。そもそもフェイスガードを、やれメジャーの真似っこだファッションだと言う人ですらいるのだ。

 現在、学生を含むアマチュア野球でC-FLAPの装着は”ヘルメットの改造”と見なされて許可されていない。夏の甲子園にも、150キロ超えの豪速球を披露する球児たちが現れることだろう。

 そんな晴れ舞台で、もし顔面死球などの悲劇が起きてしまったら――どんなことが起きるか、想像してみてほしい。日本特有の野球文化や球児たちを守るために必要な道具に、世代や国境などないのではないだろうか。

※取材日は2019年7月

文/写真:戸嶋ルミ