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工藤公康と科学的野球を学んだ BCL武蔵のタダ者ではない中国人球団職員【Global Baseball Biz vol.15】

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 埼玉武蔵ヒートベアーズの劉源投手へインタビューを行った際、通訳を務めてくれた球団職員の劉璞臻(リュウ・ハクシン)さんという青年がいた。聞くところによると彼は、日本の大学院で野球の動作分析やコーチング学を専門的に学んだエキスパートであることがわかった。今回は、タダ者ではない彼のことを是非記しておきたい。

■野球を徹底的に学ぶため来日 大学院で元プロ野球選手と並んで受講

 劉さんは、中国の山東省出身。大学まではサッカーをやっていたという。野球を始めたのは大学からだが、山東省の代表に選ばれたこともあるスポーツマンだ。

 中国の体育大学で体育教育を専門的に学んだのち、来日して筑波大学大学院に入学。人間総合科学研究科で体育学を専攻。野球コーチング学や野球の動作分析を研究した。劉さんは研究生全体で初の中国人どころか、初の外国人留学生だったという。

「野球が大好きだったので、日本で科学的指導を学びたくて来日しました。川村卓先生の下で学びたくて筑波大学大学院を選びましたが、当時、僕の他の学生は日本で野球をやっていた人ばかりでした。授業で席についたら、隣に工藤公康さんが座っていたこともありました」

 当時の同科には、吉井理人氏(現・千葉ロッテマリーンズ一軍投手コーチ)や、工藤公康氏(現・福岡ソフトバンクホークス一軍監督)、仁志敏久氏も在籍していた。なんとも錚々たるメンバーである。

 在学中は大学院での講義や研究のほか、社会人野球チームの試合に行ってチームデータの分析をしたり、高校野球の茨城県大会で記録員を務める他、インターンとして東北楽天ゴールデンイーグルスの戦略室でトラックマンの使い方やデータの活用法などを学んだそうだ。大学院と研究院生活での5年間は、様々な経験を積んだ期間となった。

■BCリーグのチームスタッフとして

 大学院卒業後は埼玉武蔵ヒートベアーズの球団職員となり、現在は主に通訳と運営企画を担当している。とはいえチームスタッフの数は多くないため、必要とあれば様々な業務にも協力する。大変ではないですか、と聞くと「ひとつのことをやるよりも、いろんなことをやらせてもらって勉強になるし楽しいですよ」と笑っていた。

 また、球団職員として働く上で、劉さんならではのアイデアも活用されているそうだ。

「夏休み期間に、中国の少年野球チームを日本に招待する予定です。埼玉武蔵ヒートベアーズのチームや選手に協力してもらって野球教室を行ったり、練習試合を計画しています。中国の野球少年たちにとっていい経験になると思います」

■中国の野球の発展に「日本の野球の素晴らしさ」を活かしたい

 

 日本の野球に魅せられ、日本で野球の研究をしたのちに球団職員として働いている劉さん。日本の野球のどんなところに惹かれたのだろうか。

「日本の野球の素晴らしいところは、マナーと、野球に対する情熱だと感じています。あと緻密な戦略を立てて”頭を使う”ところですね」

 この点については、中国出身の劉源投手も同じことを言っていた。日本野球の礼儀正しさや野球に対する姿勢は、同じアジア出身の人から見ても”何かが違う”と思わせるものがあるようだ。

「将来は中国に戻って、日本で学んだことや得たことを生かしていきたいです。野球の動作分析の研究も続けたいですし、野球の指導もやってみたいですね。中国の子どもたちや指導者に、日本で学んだ科学的な野球の知識を伝えたいです。中国の野球人口は増えていますが、指導者の数は足りていませんし、正しい知識を持った指導者が少ないというのが現状です」

 中国は、東アジアの中でも恵まれた体格の人が多い。広大な国土のどこかに、ダイヤモンドの原石が眠っている可能性は大いにある。それは点々と存在しているのではなく、ひょっとしたら大きな鉱脈のようなものかもしれない。

 その「かもしれない」を劉さんが科学的に実証していく日は、きっとそう遠くない。

写真・文:戸嶋ルミ
取材協力:埼玉武蔵ヒートベアーズ