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5年ぶり勝ち点の立役者は『北野高校出身の北野君』。ブレない心を持つ次期主将 北野嘉一(京都大3年)【Future Heroes Vol.34】

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『3番・ライト・北野君。背番号4。北野高校』

 苗字と出身高校が偶然にも同じである京大の北野嘉一。打席に入ってアナウンスされるとスタンドがざわつくこともあるが、「覚えてもらえるので、嬉しいです」とはにかむ。

 だが、目立っているのは名前だけではない。2年春にレギュラーの座を掴むと、3番に座った今季はリーグ3位の打率.385(10月13日終了時点)をマーク。打の中心としてチームに欠かせない存在となっている。

北野嘉一(きたの・よしかつ)・・・1999年1月16日生まれ。大阪府茨木市出身。北野高→京都第3年。175㎝74㎏。右投左打。

 北野は中学1年生の冬に所属していた硬式クラブチームを諸事情により退団。野球を辞めようと思ったこともあったが、父・治廣(はるひろ)さんの説得もあり、思いとどまった。それからは父と二人三脚で個人練習の日々。土日には朝6時から手がボロボロになるまで延々とティー打撃に励んでいたという。

 高校は先日ノーベル化学賞に選ばれた吉野彰氏も輩出した府内屈指の進学校である北野に進んだ。1年秋から二塁手のレギュラーを獲得したが、2年夏に4回戦進出が最高成績。大阪桐蔭や履正社のいる激戦区において、甲子園はほど遠いものだった。

 高校野球を終えた後は受験勉強に燃えた。阪神ファンの北野は阪神甲子園球場が公式戦で使われる関西学生リーグに所属する京大を志望していた。しかし、引退まで野球に打ち込んでいたこともあり、高校3年生の夏の時点で偏差値は50前後。高校の先生からも受験を反対されるレベルだった。それでも、1日で多い時には14時間も勉強に費やして、偏差値は70に上昇。驚異的な努力で現役合格を勝ち取った。

 入学後は1年秋にリーグ戦デビューすると、今年の春には憧れだった甲子園でもプレーした。しかし、勝ち点が遠かった。一つ勝つことはできても、「3回戦になると相手の底力が上回ってくる」と強豪校の壁を痛感。あと一歩で苦汁を飲まされてきた。

 そんな中、今秋の関西学院大戦で3回戦に持ち込み、10季ぶりの勝ち点のチャンスが巡ってきた。勝ち点のかかった試合の6回裏、一死一、三塁のチャンスで打席が回ると、一二塁間を破る先制タイムリーを放つ。値千金の一打に「野球をやってきた中で一番嬉しかったです」と喜んだ。北野のタイムリーを機に京大はこの回4得点。3人の投手リレーでこのリードを守りきり、入学して以来、初の勝ち点をもぎ取った。

「この時のためにやってきました。感極まって、堪えられなかったです」と試合後には涙を流した北野。これまで幾度となく打ちのめされ、勝ち点を取ることの難しさを知る彼だからこそ見せた涙だった。

 5年ぶりの勝ち点を獲得した京大は、さらに今週13日と14日の同志社大戦で連勝して勝ち点2とし、2000年秋以来38季19年ぶりの最下位脱出を決めた。今後の更なる躍進が期待されるチームにおいて北野は次期主将に内定している。「プレーで引っ張っていけるようなキャプテンになりたいです。目標は優勝」と目指すところは高い。

 これまで最下位が定位置だった京大が優勝を目標にするのは無謀と思う人も多いかもしれない。だが、北野は高校時代に偏差値を20も上げて、厳しいと思われていた京大に合格。野球でも田中英祐(元ロッテ投手)が卒業してから遠ざかっていた勝ち点を自らのバットで手繰り寄せるなど、不可能と思われたことを可能に変えてきた男だ。

 文武両道を貫く秘訣を「とにかくブレないこと」と語る北野。優勝という目標がブレなければ、来年には奇跡を起こすかもしれない。

好きな選手である糸原健斗(阪神)に顔が似ていると言われることもあるそうだ。

文・写真=馬場遼