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2019.12.11 15:00
定番のチーズケーキで直球勝負「2-3 Cafe」【Ballpark Trip vol.33】
日本有数の繁華街である渋谷から、東急東横線で一駅。時間にしてわずか3分に位置する代官山は、閑静な住宅街とおしゃれなアパレルショップが交差する街としてよく知られている。
代官山の駅前は、大きな商店街や百貨店があるわけではない。カフェやバーなどは路面店としてポツポツと点在し、それぞれがそれぞれの持ち味を出し、街を形成している。そのひとつが「2-3 Cafe」(ツースリーカフェ)だ。
駅から徒歩5分ほどに位置する店舗を切り盛りするのは小林敦司店長である。代官山が似合う優しそうな顔立ちにガッシリとした胸板。人気俳優と言われても決して驚かない。しかし、小林店長は俳優ではなく広島とロッテで11年間(1991年〜2001年)プレーした元プロ野球選手である。
現役引退後に飲食の道を選んだ小林店長は複数の飲食店でのアルバイトを経て、2011年4月に同店をオープンさせた。流行り廃りのある飲食業界で9年も店舗を継続させているのは信頼の証だろう。言い換えると、たしかな味を提供し続けているということでもある。
そんな「2-3 Cafe」のイチオシ商品はチーズケーキだという。その味、いわゆるレシピはオープン当初からほぼ変わっていない。
小林店長によると「1年から半年後から変えてないですね」とのこと。まさにお店の定番商品として、二人三脚でここまで歩んできたのである。
当たり前ではあるが、スイーツは時代によって流行がある。ロールケーキや冷やしクリームパン、パンケーキ、タピオカ……。そういった流行ものをメニューに取り入れる店舗も多い。しかし、小林店長はそうしない。
「いちいち流行を気にしてたんじゃしょうがないですし、うちはうちのものに特化してます。チーズケーキは流行り廃りがないものですからね」
と、あくまでチーズケーキにこだわっている。まさに直球勝負だ。
そんなチーズケーキが売りの「2-3 Cafe」だが、ほとんど宣伝をしていない。驚くべきことにオープン当初はとくに自身がプロ野球選手ということを表に出していなかった。そして現在も積極的に前面へ押し出しているわけではない。
「200勝とかそういうのがあればいいけど、ぼくはそうじゃないですから。(元プロ野球選手ということを)言ったところで『何ができるんだ』って言われるよりは、そんなことをしなくても美味しいものができるってことを見せればいい、と思ってやってきました。別に隠していたわけじゃないですよ。言わなかっただけです(笑)」
小林店長は「元プロ野球選手」という肩書きで売るのではなく、あくまで商品、そして味で勝負してきたわけだ。結果としてそれは正解だったのではないか。テレビで取り上げられたこともあり現在は取材も受けているが、SNSなどで発信を行っているわけではない。それでもお店に足を運ぶお客さんは多い。それがひとつの答えだろう。
小林店長はどこまでも謙虚だ。
「もともとカープグッズだってなかったですからね。テレビで取り上げられたことでお客さんが置いていってくれたんです。常連さんがテレビを見てから『プロ野球選手だったんだ』と言ってくれることもありました。まぁ知ってようが、知らなかろうがいいんですよ。やっぱり、チーズケーキを知ってもらえたほうが嬉しいですしね」
世の中には過去の肩書きを楯にする人も多い。しかし、小林店長は一切そのような素振りを見せない。それでも、お店は続いている。信頼の味、そして小林店長の人柄もあり人が人を呼ぶ。その好循環が生み出されているということは容易に想像がつく。
騒がしくない街、そしてお店は貴重なものとなりつつある。
ちょっと疲れた時、ひとりでぼんやりとしたい時、友人とおしゃべりをしたい時、渋谷からちょっと代官山に足を運んで見るのもいいのではないだろうか。「2-3 Cafe」でチーズケーキを食べながら、過ごす時間はきっと最高なものとなるはずだ。
記事:勝田聡