BASEBALL GATE

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「習わず、遊びで野球を上手に。より楽しく!」早大野球部が示す新たなカタチ(前編)

 小学3年生から6年生の普段野球をやっていない男女がわずか2時間弱でボール投げの記録を平均2メートルも伸ばす。ある小3男子にいたっては最大8メートル記録を伸ばした、そのイベントで行われたのは特別な指導ではなく、ただの「遊び」だった。

遊び後遠投測定

【遊び後の遠投測定】

 野球はいつからか習い事の一環となった。「なってしまった」といった方が正しいかもしれない。かつて少年少女がプラスチックバットやゴムボールで野球をしていた公園は「球技禁止」となったり、公園自体が無くなってしまったり。

野球をやるには、チームに入って指導者のもとで教わらなければできなくなってしまったと言っても過言ではない。そこには親にとっては手間や経済的負担、子供には「チームに入る」というハードルが少なからず設けられている。

 スポーツ庁の調査では、11歳男子によるボール投げの記録が平成時代の30年間で5メートルも下がったというデータもある。投げる動作は野球に限らず、バレーボールやテニスなど他競技に展開する重要な動作でもあり、こうしたデータは「体を大きく動かす」ということが減っている証左でもある。

同時にその大きな一因となっている「遊び場の減少」は子供たちの運動能力だけでなく創造力の低下にも繋がる重要な社会課題である。

 その課題解決を目的に、西東京市東伏見にある早稲田大学の安部球場と軟式野球場で行われたのが、『「あそび場大開放」~現役選手と野球あそびで楽しもう~』だ(主催は早稲田大学 Hello! WASEDAプロジェクト、 野球部OB会 『稲門倶楽部』)。

記念撮影

【『「あそび場大開放」~現役選手と野球あそびで楽しもう~』の記念撮影 】

★「野球をしていない子供たち」が対象

 2019年12月8日、晴天の下に集まったのは小学生約130名(うち女子が約35%)。

 シーズンオフにあたるこの時期は、プロアマ問わず多くの現役選手たちが少年球児に向けて野球教室を行う。ただ、それは既に「野球をしている」子供たちが相手だ。もちろんはそれも大きな意義はあるが、社会課題解決に向けて、このイベントは「野球をしていない」小学生に限定し、下記のように課題と挑戦を設定した(配布資料より)。

1.「バット、ボールを使えるあそび場がない」
規制が厳しく、子どもが集まらなくなった公園もある
⇒野球場をあそび場に変えよう!

2.「野球チームに入るのはハードルが高い」
親の負担、長時間拘束、勝利至上主義への嫌悪感
⇒野球あそびから楽しもう!友達をつくろう!

3.「ボール投げ能力の低下」
ボールを投げる機会がない。
⇒習わず、遊びで上手に投げられるようにしよう!

 今回特に重要視したのが3つ目の「習わず〜」という部分だ。今回のイベントの運営の中心となり、発育・発達や育成年代の運動指導などを研究する勝亦陽一氏(早稲田大野球部OB/東京農業大准教授)は「僕たちが目指しているのは教え込んで上手くなるのではなく、楽しみながら“またボールを投げたいな”“もっと上手くなりたいな”という気持ちを育んでいくことです」と話す。

 さらに「もっともっと自由に。コンセプトは子供たちが“遊びを創造し、それを持って帰れること”。柔らかいボールを使っての遊びですので、今日楽しかったこと、今日やっていたことなら、本来はどこでもできるんです」と続けた。

 では習わずに、いかにして子供たちは上手くなったのか。それは大人たちによる遊び場の提供だ。

★遊びの中で正しい動作を身に着ける

段ボールへのボール当て

【段ボールへのボール当て】

 積み上げられた段ボール、壁やペットボトル、地面に置かれたトランポリンなど、それぞれに思いきりよくボールを投げつける子供たち。その姿は無邪気そのものだが、この動作が「ボールを上手く遠くに投げる」ことに繋がっている。

 ひとつは「体を思いきり使うこと」。段ボールを倒すことを考えれば、思いきりよく投げるために、自然と体を大きく使うようになる。

 ふたつめは「狙ったところに投げること」。遠くに飛ばすためには、投げる角度に狙いを付ける必要がある。それを壁や的に向かって投げることで投げる方向を調整できるようになる。

 最後は障害予防。トランポリンに向けて真下に投げようと思えば、自然と肩肘が上がった安全な投げ方が身につく。

トランポリンボール当て

【トランポリンボール当て】

 これらを言葉で指導するのではなく、子供たちは一見単純な遊びの中で身につけたのだった。これにより冒頭に紹介した記録の伸びが「勝手に」現れたのだと勝亦氏は分析。そして、大切なのは「教える」ことではなく、「遊ぶ場所を作ること」だと力を込めた。

「昔は子供たちが勝手に楽しむ中で投げる動作を身につけていました。でも今はその場が無い。そうした環境を用意すれば子供は勝手に遊ぶんです。それを大人で用意したということです」

後編へ続く

楽しむ子供たち

【楽しむ子供たち】

文・写真=高木遊