- プロ野球
2017.06.23 12:00
阪神が予測値以上の結果を残し続けるためのポイント
■ポジション別の得失点貢献度
交流戦も終わり、今日23日からペナントレースが再開する。今回のテーマは阪神のリリーフ陣に関するものなのだが、交流戦がすべて終了した区切りのタイミングでもあるので、首位チームの戦力分析から話を始めたい。
セ・リーグは広島が41勝25敗の勝率.621、パ・リーグは楽天が40勝20敗の勝率.667で首位を走っているが、両チームはどのような強みを武器にシーズンを戦っているのだろうか。ポジション別の得失点貢献を示したグラフで見てみよう。
このグラフはリーグ平均と比較して、ポジションごとに攻守でどの程度得点増、失点減に貢献しているのかを表したもので、0であればリーグ平均と同じ程度、プラスであればリーグ平均より良い成績であることを表している。
グラフから分かるように、首位の2チームはともにマイナス要素が少なく、どのポジションでも強みを出していることが分かる。中でも、広島は主に丸佳浩が守るセンター、鈴木誠也が全イニングに出場しているライト、さらには先発で大きなプラスを得ていることが分かる。特に先発陣はチームのレジェンド・黒田博樹が抜け、昨年沢村賞を獲得したジョンソンが不調で離脱するという状況の中で高い数値を残している。ここまでは、シーズン前に予想できた以上の結果といえるだろう。
一方、昨年の5位から一気にジャンプアップしている楽天は、西武から獲得した岸孝之、エースの則本昂大に加え、美馬学がキャリアハイのペースで活躍していることもあり先発陣のプラス貢献が大きくなっている。また、野手は2年目を迎えた茂木栄五郎やペゲーロの貢献度が高く、ショートやライトがチームの強みとなっている。ただ、広島に比べると野手は突出していないポジションも多く、先日ケガで登録を抹消された茂木が戻ってくるまでは、ロースコアで辛抱する戦い方も必要となるだろう。
■突出しているポジションは?
最初のグラフに描かれていた12のポジションにおいて、リーグ内でどれだけ突出した貢献度を残していたのかをランキングにしたものが上の表だ。なお、得点貢献度はあくまでもリーグ内でのポジション別に算出した相対評価なので、広島の中堅手が最も貢献しているという意味のランキングではない。あくまでも、広島の中堅手はセ・リーグの他の中堅手に比べて突出した貢献度を残していて、その突出具合が際立っているということである。
ランキングのトップ10を見ると、首位の広島と楽天は2ポジションずつ、セ・リーグ2位の阪神は1つ、パ・リーグ2位のソフトバンクから2つと、各リーグ上位2チームで7/10を占めている。
一方、ランキングの下位に目を移すと、主力選手が昨季と比べて大きく成績を落としていたり、若手に出場機会を与えている途中だったり、元々短所と認識されて補強を行ったもののうまく機能していないポジションが並んでいる。すでに一部補強の動きが見られているが、一塁やレフト、さらには投手など外国人の獲得が比較的しやすいポジションに関しては、各球団の動向に注目しておきたい。
■得失点と勝敗の予測(1)
さて、こちらの表はポジション別得点貢献のデータから得点数、失点数を予測したものとなる。
注目すべきは実勝数との差の部分だ。ポジション別得失点貢献の合計値にリーグ平均得失点を加算したものを予測得失点とし、その上でピタゴラス勝率の考え方に基づいて勝数の理論値を割り出すと、首位の広島は理論値の方が2勝分多い(つまり、もっと勝っていても良かった)という計算になる。楽天は実際の結果の方が3勝分多く「理論上はソフトバンクが首位でも良いはず」という見方になる。
最も差が大きく出たのは-6の阪神。ここまで37勝しているが、この計算上は31勝が妥当という結果だ。
■得失点と勝敗の予測(2)
ただし、成績の理論値①には攻撃の成績をポジション別に算出しているなど、手法にやや問題があるため、別途BaseRunsをもとにした予測値を算出した。
成績の理論値の作り方はいくつかあるが、勝率だけでなく得点数自体も予測するタイプの中で最も正攻法と思われるのがBaseRunsからの予測だ。BaseRunsは出塁数と理論上の生還率、それと本塁打から予測される得点数であり、実得点と強い正の相関がある。
こちらの数値を見ても、やはり実際の勝数と最もかい離があるのは阪神で、実際の勝数(実勝数)の方が4勝分多いという結果が出た。
■本塁への生還率と理論生還率
BaseRunsによる結果の意味をひも解くためには、塁に出た走者がどのくらいの割合で本塁に生還したのか(生還率)を考える必要がある。
「実際の生還率」と「理論上の生還率」、さらには守備時における「実際の被生還率」と「理論上の被生還率」を表したものが上の表である。阪神は実際の生還率が理論上の生還率よりも高く、実際の被生還率が理論上の被生還率よりも低くなっている。
つまり阪神は「想定よりも多く点が取れており、少ない失点にとどめている」ということだ。
■予実のギャップを見る
生還率と被生還率について、理論値と実際の値の差分をランキング化したものが上の表である。ギャップの合計を見ると、やはり阪神は12球団トップの数値であり、現時点では最も「想定より得点が入っており、失点が少なくすんでいるチーム」といえる。
■生還率ギャップの要因
生還率ギャップの高さに関して簡単に考察するために、生還率ギャップが最下位となっているオリックスと打順別OPSを比較する。上は通常の折れ線グラフだが、9番の次が1番という打線の特徴を示すために、下は同じデータをレーダーチャートで示している。
阪神は8番、9番以外の得点力の高い選手が近くに並んでいるのに対して、オリックスは得点力の高い1番と4、5、6番の間に谷がある。これでは1番が出塁しても後続が続かない、もしくは1番が長打を打った際に走者がたまっていないことが想定され、思ったほど生還率が上がらないのもうなずける。
逆に阪神は1~7番の得点力に大きな穴がないことが生還率の高さにつながっていると考えられる。
■被生還率ギャップの要因
一方で、阪神が被生還率のギャップをつくっている要因には得点圏での成績の良さが上げられる。特に救援投手は優秀で、対戦打者80人以上の7投手を対象に得点圏有無での成績を比較すると、7人中6人が得点圏で成績を伸ばしていることが分かる。
■交流戦終了時点、交流戦後の比較
2005年に交流戦が始まって以降の交流戦終了時までと交流戦後の生還率、被生還率ギャップの合計を散布図で比較したものが上のグラフとなる。円は各年度各チームをプロットしたもので、黄色が阪神を表している。円の配置がばらけていることからも分かるように、実はこの2項目の相関係数は0.11とほとんど相関はない。
現在の阪神の好調さを示す生還率ギャップが生まれている要因のひとつとして打線における得点力の平準化、被生還率ギャップが生まれている要因のひとつとして得点圏での成績の良さを挙げたが、交流戦終了時を境としたギャップの合計に相関がないという傾向だけを見ると、これらの現象は采配や戦術がうまく機能していることを示すというよりも「ある程度運が良い状態」と考えるのが自然ではある。ということになる。
ギャップの合計が大きいことを「運が良い状態である」で片づけない方策は何かないのだろうか。ちなみに、阪神が優勝した2005年は交流戦終了時点でも、交流戦後も生還率、被生還率ギャップの合計が高いまま維持しされていた唯一の年である。となると、優勝した2005年のようにギャップの合計を高いまま維持する方法がなおさら気になってくる。
もちろん最善の策は戦力そのものを高めることだが、トレードの市場が活発でない日本プロ野球では、6月後半から外国人以外の戦力補強を行うことは簡単ではない。その意味を踏まえても、現有戦力をどのように効率よく活用すれば成績は上がるのかという視点の方がより現実的であり、この時期に興味が引かれる部分だろう。
■救援投手の貢献度が突出している阪神
ここで、冒頭で紹介した得失点貢献グラフの阪神版を見てみよう。野手こそ大きくプラスになっているポジションがないものの、救援投手は大きなプラスをつくっていることが分かる。
■リリーフの層の厚さが、予測値以上の結果を残す鍵となる
さらに、救援投手の成績を個人別に分解すると、セ・リーグのトップ3が桑原謙太朗、マテオ、ドリスのKMD。さらに髙橋聡文、藤川球児、岩崎優も含めると、セ・リーグの救援投手トップ13人中6人が阪神となっている。
救援陣の得点貢献の大きなプラスは、ごく一部の投手の成績で構成されているわけではなく、能力の高い複数の投手によって生み出されている状態なのだ。
救援の枚数が豊富であるということは、年間を通して適材適所な起用を選択するオプションがあるということになる。すなわち重要度の高い場面で能力の高い投手を起用する采配が可能ということである。この部分を工夫することによって「出塁は許しても生還は許さない」という結果につなげることができれば、理論被生還率と被生還率のギャップをつくることができるはずだ。これは、困った時に頼れる投手が1人、2人しかいない球団にはできない特権であろう。
では、次に重要度の高い場面でどの投手を起用すべきなのか?という問題が気になるものの、この投手選択は基本的な投手の能力だけでなく「打者との相性」「投手の投球前後のコンディション」など、さまざまな要因を考慮する必要がある。また、そもそも重要度をどのように測るか、一般的なレバレッジ・インデックスを用いるだけで良いのか?などの複雑な問題が残ってくるため、この点については次回の課題にしたい。
いずれにしても、阪神リリーフ陣の層の厚さは、想定以上の結果を出し続けるための武器となるのではないかと考えられる。レギュラー野手より控え打者の方が常に優れているという戦略は取り入れにくいが、投手に関してはやや趣が異なるはずなので、理論被生還率と被生還率のギャップならば戦略的につくれる可能性がありそうだ。その点を頭に入れながら、2005年以来のリーグ優勝に向けた救援投手の起用法に注目したい。
【算出に関する注釈】
・得失点貢献は野手はポジション別のwOBA、投手は先発救援別のtRAをもとに算出。
・投手の守備は便宜上、すべて先発に合算。
・野手の守備はUZRをもとに算出(UZRのゾーンデータは速報値を使用)。
・ピタゴラス勝率を算出する際の乗数は以前日本版として算出した1.64を採用。
・BaseRuns= A×(B÷(B+C))+D
A = 安打+四球+死球-0.5×故意四球-本塁打
B = 1.1×(1.4×塁打-0.6×安打-3×本塁打+0.1×(四球+死球-故意四球)+0.9×(盗塁-盗塁刺-併殺打))
C = 打数-安打+盗塁刺+併殺打
D = 本塁打
・生還率=(得点-本塁打)÷(本塁打以外の出塁)
・理論生還率=B÷(B+C)
※データは2017年6月22日現在
文:データスタジアム株式会社 金沢 慧