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侍ジャパン

データが裏付ける世界一・侍ジャパンの強み【NISSAN BASEBALL LAB】

【写真提供:共同通信】

 

 決勝戦で韓国を破り、第2回WBSCプレミア12優勝を果たした侍ジャパン。千賀滉大や松井裕樹の出場辞退、秋山翔吾の故障による離脱など計算に狂いは生じたものの、3位に終わった前回大会の雪辱を果たした。侍ジャパンの強みがどこにあったのか、大会の成績を通じて分析したい。

■得点力は大会ナンバーワン

 今大会の侍ジャパンは、開幕以前より打力不足を懸念する声や、期間中にも物足りなさを指摘する向きもあった。ところが、各国の成績を並べてみると日本の得点力は決して低くなかったことが分かる。図1はスーパーラウンド(2次リーグ)に進出した6カ国の大会通算の平均得点と平均失点を示している。オープニングラウンド(1次リーグ)敗退チームは試合数に差が出るため、今回の比較では除外した。図を見ると分かる通り、日本の平均得点は6カ国の中でトップとなる5.5を記録。印象の上では力強さを欠いて見えた打線でも、実際に得点を生み出す能力に関しては他国をはっきりと上回った。

 「点の取り方」に着目すると、侍ジャパンの特性が浮き彫りとなる。表1は6カ国の打撃結果ごとの打点を集計したものになる。相対的に長打力の高いメキシコ、アメリカは本塁打による打点の比重が大きく、そこまで本塁打の多くない日本や韓国はシングルヒットによる打点の割合が大きく、各国の打線の特徴がよく出ている。

 ここで注目したいのは「それ以外」の項目で、要は安打以外でどれだけ得点できていたのかを表している。日本の安打以外での打点はトップの10。押し出し四球や犠飛による打点、そして象徴的といえるのがオーストラリア戦で見せた源田壮亮のセーフティスクイズ(記録はフィルダースチョイス)。打席の中で工夫して少しずつ得点を積み上げることで、他国よりも平均得点を押し上げた。

 トータルの打撃成績を比較すると長打力ではアメリカやメキシコに譲るものの、侍ジャパンは出塁率の高さが光った(表2)。今回は選球眼の優れた打者がそろい、制球の定まらない投手から確実に四球を選ぶシーンが多々あった。ボールゾーンスイング率は22.8%と非常に優秀で、日本の打者がむやみに振り回すことはほとんどなかった(表3)。

 こうして着実に出塁を重ねて少しずつ塁を進め、時には代走・周東佑京が盗塁を決めてチャンスメークし、安打で本塁を踏めればよし、安打が出なくても搦め手も用いながら三塁走者を本塁に迎え入れる。それぞれの打者が打席の中でできることを遂行し、得点につなげていくという日本らしいアプローチが随所に見られた。

 そして、大会MVPに輝いた鈴木誠也の四番打者としての存在感は別格だった。侍ジャパンの4本塁打のうち3本が鈴木によるもので、OPSは1.566と破格の数字で各国の強打者を寄せ付けなかった(表4)。出場した8試合のうち打点がなかった試合はアメリカ戦のみで、主砲としてのコンスタントな活躍はMVPに相応しいものだった。

 一発がありチャンスに強い四番打者に加え、つなぎを意識して泥臭く得点を奪う役者ぞろいの打線。ある意味で2020年東京五輪の前哨戦とも目された今大会だったが、明確な結果を残したことでこのプレースタイルの継続が見込まれる。

■盤石のブルペン

 投手陣では侍ジャパンの救援陣の安定感が光った。救援防御率1.80は6カ国中トップで、守護神の山﨑康晃まで危なげない継投でチームを勝利に導いた(表5)。リードした局面で救援陣が捉まって落とした試合はなく、他国に対して大きなアドバンテージとして機能した。

 侍ジャパンの救援陣の強みは高い奪三振率と低い与四球率の両立にある(表6)。ひとつの打球が致命傷となりかねない短期決戦でのリリーフでは、確実にアウトを見込める三振が期待される。そして今大会3試合以上救援登板した投手10人のうち、イニング以上の三振を奪ったのが8人(表7)。さらに10人の中で無四球だった投手は6人と、大会屈指の完成度を誇るブルペンだった。

 抑えの山﨑康晃につなぐ甲斐野央、山本由伸の両セットアッパーの出来も抜群で、新しい必勝リレーの形を示した。2人はいずれも150キロ台の速球でカウントを稼ぎ、140キロ前後のフォークで打者を牛耳った。山本はレギュラーシーズンでは最優秀防御率のタイトルに輝いた先発右腕だったが、勝ちパターンのピースとして鮮烈な活躍。東京五輪ではどのような起用となるのか議論を呼びそうだ。

 得点力の高い打線、鉄壁のブルペンとポジティブな要素が多々見られた今大会の侍ジャパンだったが、アキレス腱となったのが先発陣の出来だった。11/13のメキシコ戦までは比較的安定した内容で抑えていたが、11/16からの韓国2連戦で岸孝之、山口俊が序盤で失点を重ねた(表8)。アンダースローの新鋭、高橋礼の好投など明るい材料もあったが、絶対的エースの不在は来年の東京五輪に向けて課題を残した。

 今大会はこれまで日本のエースとして君臨していた菅野智之が故障の影響で選出されず、次期エースの呼び声高い千賀も前述の通り出場を辞退。代表常連の則本昂大も故障の影響もあってか参加しておらず、稲葉篤紀監督の望む完璧なラインナップではなかった。東京五輪では彼らエース候補の復帰を待つか、それとも新たなエース候補の台頭を望むか。今大会のエース不在は、裏を返せば東京五輪に向けた侍ジャパンの上積みの要素でもある。

文:データスタジアム株式会社