- 大学野球
2019.10.07 17:00
後悔の連続や悪戦苦闘の中で得た武器と最高の仲間とともに優勝を 西山翔真(法政大4年)【Future Heroes Vol.33】
東京六大学野球秋季リーグで開幕6連勝と2季ぶりの優勝に向けて勢いに乗る法政大。快進撃の要因となっているのは、全試合を継投で勝ってきた投手力と4年生を中心としたまとまりや要所での活躍が大きい。
その後者の部分がまさに表れた試合が10月5日の対明治大1回戦にあった。今秋のドラフト1位候補に挙がる明大・森下暢仁(4年・大分商)は初回こそ内野安打で1失点を喫したが、その後は得点を許さず。「次の1点」がどちらに入るかで試合の展開が大きく変わることは必至だった。
そんな展開で法大は6回裏に無死一、三塁のチャンスを作り、ここで青木久典監督に切り札として代打起用されたのが西山翔真(4年・市和歌山)だった。
西山は高校2年夏に甲子園に出場。最後の夏は甲子園出場を逃したが、その能力を買われて法政大への進学が決まった。だが、そこからがさらに苦しい戦いの始まりだった。
同じく法政大への進学が噂されていた遊撃手がドラフト上位でプロ野球に進んだ。そこで安心したのも束の間、大阪桐蔭で活躍した遊撃手の福田光輝(現主将)も進学することを知り「マジかと思いましたよ」と笑って振り返る。
他にも全国各地から集まった猛者たちのプレーと自らを比べ、1年生の時は後悔の連続だったという。それでも仲間たちの存在が西山の心を繋ぎ止めた。特に同期で同じ法学部の朝山広憲(4年・作新学院)と毛利元哉(4年・愛工大名電)は「なんでも言い合える仲」と通学や授業などでも常に一緒で笑い合い、助け合ってきた。
また生き残るための手段として、全てのポジションを守った。ブルペン捕手を買って出たこともある。打撃では総合力の向上はもちろん、バントなどの小技も必死に磨いてきた。そうして初めてベンチ入りを掴んだのは2年秋だったが、その後も出たり入ったり。特に打席に入ることは少なく、今回が4年間で10打席目だった。
そんな西山を、この優勝さえも占うような好機で代打に送り出した青木監督は「小技も兼ね備えた選手だったので」と起用理由を語った。
そして、3ボール・ノーストライクとなった4球目。西山はサッとバットを持ち替えると、上手く一塁側にバントで転がした。打球は本塁に送球されるも判定はセーフ。「ストライクを取りに来るカウントでしたし、一塁に走者がいたので、一塁手のチャージも弱くなる」という青木監督の狙いに見事に応えるセーフティースクイズだった。試合はこのまま2対0で勝利。高校でも公式戦のスクイズは一度しかなかったが、4年間で競争を勝ち抜くための悪戦苦闘は、ここ一番で強敵にトドメを刺す大きな武器になった。
試合後、西山は「朝山と毛利が打席に入る前に“ここで決めたらヒーローインタビューだぞ”と言ってくれたおかげです」と、白い歯を見せた。
最高の仲間とともに、最後の秋に全力で喜びを分かち会いたい。そんな思いを持って、西山はいついかなる時でも準備を怠らず出番を待つ。
文・写真=高木遊