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2019.10.03 12:00
叶うべき夢の先へ~野球のために海を渡ったオリックス張奕投手<前編>【Global Baseball Biz vol.26】
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2019年、年号は平成から令和に変わり”令和最初の~”というワードが飛び交った。野球界でも令和最初の記録について様々なものが話題になったが、今回は”令和初の支配下登録選手”となったオリックス・バファローズの張奕(ちょう・やく)選手について紹介したい。
■日が暮れても野球遊びに没頭した少年時代
張選手は、台湾の花蓮県出身。野球を始めたのは小学校に上がる前からで、地元の友達と一緒に野球遊びをしていたそうだ。小学校3年生から台北の少年野球チームに参加することになったのだが、理由を聞くと実に子どもらしい理由だった。
「学校が終わってから友達を誘って毎日のように野球をして遊んでいたんですが、ある日、帰りがとても遅くなってしまったんです。家に帰ったらお母さんが『いま何時だと思ってるの! こんな時間に帰ってきて、夕飯はいらないの?!』とものすごく怒っていて……時計を見たらかなり遅い時間でした。野球が楽しすぎて、時間を忘れるくらい夢中だったんです」
この一件がきっかけで、張少年は父親からある提案を受けた。そんなに野球をやりたいなら、台北にある少年野球チームに参加してみないか? というものだった。
「僕はすぐさまやりたいって返事しました。お父さんはちょっと驚いていたかな。それで、台北の少年野球チームに参加することになったんです」
張選手の地元、花蓮県は台湾の東部に位置し、台北からは離れた場所にある。父親にしてみれば「試しに聞いてみた」程度の感覚だったそうだが、野球が大好きだった少年はその話に飛びついたのだった。
ちなみに野球に夢中になるあまり時間を忘れてしまうというのは、今も昔も変わっていないそうだ。今でも練習やトレーニングに没頭するあまり時間を忘れてしまい、球団スタッフから「張くんもう遅い時間だよ」と声を掛けられることもあるんですと笑っていた。
■菊池雄星が甲子園で投げる姿に憧れ、単身日本の高校へ
小・中学校と台湾で野球に励んでいた張選手だが、高校は日本の高校に進学した。ちなみに、7歳年上の従兄弟である陽岱鋼選手(読売ジャイアンツ)も同じ高校の卒業生だ。来日のきっかけとなったのは、甲子園だった。
「中学のとき、野球チームの監督の提案で『日本の高校野球を観よう』ということになったんです。台湾では日本のNHKが観られるんですよ。それで、みんなで甲子園を観ていたら、当時花巻東高校だった菊池雄星選手(シアトル・マリナーズ)の投球が映って。それを観て『すごい、やばい、甲子園に行きたい! あのマウンドに立ちたい!』という気持ちが心の底から沸き上がってきたんです」
そこからは、早く日本の高校に行きたい! 日本で野球をやりたいという昂ぶる気持ちを抑えられなかった。思えば小学3年生のころから親元を離れてまで台北のチームに通ったのだから、母国や親元を離れる不安など微塵も感じるはずもない。大好きな野球の前では、国境も言語も関係なかったのだ。
■日本で始まった高校生活 憧れの甲子園の地へは一歩及ばず
そうして始まった念願の日本での高校生活だが、”日本の高校野球”にはすぐに適応できたのだろうか。
「野球部に入部したとき、周りはみんな僕の従兄弟(陽岱鋼選手)のことを知っていました。先輩たちは厳しくするところはしっかり指導しますが、とても優しい方たちだったので、辛いとか怖いとかいったことはなかったです」
福岡第一高校野球部では、右翼手兼投手として日々練習に励んだ。3年生の夏の第94回福岡県大会の決勝戦、張選手は1安打を放ったほか三番手投手として登板し6回を無失点に抑えたが、2―4で飯塚高校に敗戦。高校時代は憧れの地へたどり着くことができなかった。しかしこの悔しい経験こそが、後のプロ入りへの原動力になったのだった。
■「あなたは特別な息子だ」
張選手とこれまでの野球人生を振り返っていたとき、以前に父親から言われたという言葉を教えてくれた。
「僕、お父さんから『あなたは特別な息子だ』って言われたことがあったんです。その時は、そうかな~? って思ったんですけど……野球チームに通い始めた小学校の頃の自分が、今の自分のこんな姿なんて想像できるわけもないですよね。お父さんには、僕の未来がわかっていたのかな……」
野球が大好きで、夢を追って日本にやってきた張選手。インタビュー後編では野手としてのプロ入りから投手転向後に初勝利を掴むまでをお伝えしたい。
<後編はこちら>
僕が叶えたい「あの人の夢」~オリックス・バファローズ張奕投手インタビュー<後編> 【Global Baseball Biz vol.27】
取材協力:オリックス・バファローズ
文:戸嶋ルミ