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高校野球

2年・岩崎が完投 履正社が明石商を破って決勝進出【第101回全国高校野球選手権大会第13 日】

 

【共同通信】履正社―明石商  明石商戦で6安打1失点で完投した履正社・岩崎=甲子園

【共同通信】履正社―明石商  明石商戦で6安打1失点で完投した履正社・岩崎=甲子園

 履正社の3年、桃谷惟吹。

 明石商の2年、来田涼斗。

 二人の共通点はセンターを守り、一番バッターとして切込隊長を務めるということだ。

 この二人の1回の表裏、お互いの攻撃に準決勝第一試合の分かれ目があったように思う。

 両チームとも、2年生ピッチャー、岩崎峻典(履正社)と中森俊介(明石商)の先発で始まった。

 表の攻撃、履正社の右打席、桃谷。

 中森はゲーム前、「桃谷さんは毎試合、最初の打席でヒットで出塁しているので、気をつけたい」と注意を払っていた。しかし、出塁を許す。

 3ボール1ストライクから、高めに浮いたチェンジアップをセンターオーバー、フェンスに直接当たるスリーベース。あと、ほんの1、2センチでスタンド側に落ちている当たりだった。

 2番の池田凛(2年)も甘いチェンジアップをレフト前に鋭く流し打って早くも先制した。そこから、履正社はさらに4安打の追い討ちをかけてあっという間に4点を奪う。

 裏の明石商の左打席の来田。

 履正社の岩崎は全球ストレートで挑んでフルカウント。6球目も外角高めのストレート。来田はそれを打ち抜いて、バックスクリーンにぶち込むソロホームランで1点をすかさず返した。

 明石商にとって、反撃ムードが盛り上がる申し分のない一発ではあった。明石商の狭間善徳監督が言う。

「4点を先制されましたが、焦りはなかったし、返していけるかなと」

 ただ、履正社・桃谷のスリーベースの結果について、中森が余裕をなくしたのでは、と振り返る。

「(中森にとって)桃谷君のスリーベースはホームランになってもらったほうが、気が楽やったかもしれませんね。続いてランナーが出るよりは」

 桃谷は中森が言ったように、4試合連続で初回、先頭バッターとしてヒットで出塁し、チームを勢いづけてきた。全試合、二桁安打を記録して勝ち上がってきた先導役だ。中森にとっては何としても抑えたいバッターだったはず。しかし案の定、ヒットを打たれ、強力打線を波に乗せた。

「優勝を逆算して中森の登板数、投球数を調整してきた」(狭間監督)。万全で中森を送り込んだ。

 明石商の水上桂(3年)捕手は「中森はブルペンでは良い球がきていた」と話す。

 しかし、狭間監督はブルペンで腕組みをしながら中森の投球を見ていた。

「ブルペンで上体と下半身のバランスが悪かった。早く胸が開いて、肘を使えていないときはボールが走らない。途中からセットポジションで行っていいですか、と言うんで、ええよと。まあ、2回以降は良い感じで抑えていたので。初回がなければわからんかった。6安打も打たれるのは、履正社が一枚も二枚も上やったという事でしょうね」

 明石商の目論見は初回で崩れた。

 一方の履正社は、1日間の休養をしたがエースの清水大成(3年)に先発させなかった。岩崎の先発はチームの総意だったと岡田監督が言う。

「ピッチングコーチ、トレーナーの意見を聞いて、チームみんなが納得して、それで行こうと」

 岩崎は先頭打者ホームランを喫する最悪の立ち上がりのはずが、その1点が気持ちを落ち着かせるから、野球の妙でもある。

 岩崎が言う。

「ソロホームランの1点は仕方ない。開き直って投げようと切り替えた」

 岩崎は来田の後、効果的に変化球を交える。2回は5番の宮崎涼介(3年)をストレート、6番の河野光輝(3年)からはチェンジアップ、7番の福井雄太(3年)からはカットボールで三者三振を奪った。

 岩崎が続ける。

「お世話になっている清水さんたち3年生と少しでも長く野球をしたい、という気持ちで投げた。この夏、一番いいピッチングができました」

 散発5安打、10奪三振、無四球で完投した。

 履正社・植木佑斗投手(3年)がベンチから見ていて、岩崎の調子の良さがわかったと言う。

「岩崎は両サイドに投げ分け、低めのスライダーを振らせていました」

 岡田監督にとって、エース回避は嬉しい誤算になった。

「岩崎がここまで投げてくれるとは夢にも思わなかった」

 狭間監督は先発が清水だったら、違った展開になっていただろう、と言う。

「清水君なら対策はできていた。ボールも見極めることができて、スライダーを内なら打ってる。あんなに三振は取られていない。清水君は連投が効くんで、岩崎君の先発は僕の中では想定していなかったですね」

 先頭バッターにスリーベースを打たれ、監督の不安をそのまま引きずった中森。片や、ホームランを打たれたが、そこでリセットした岩崎。2年生の先発投手の、一人目のバッターを終えての気持ちの表と裏が、真逆なその後をもたらした。

 狭間監督は完敗を認めたが、中森にも来田にも二人の2年生には見るべきものもあったと言う。

「二人とも不器用なんでね。でも中森は理解力もあるし、すごいピッチャーになれる。来田もタイミングが取れるようになれば、8分ぐらいの力で振っても、みんなオーバーフェンスする打球を打てる要素は持ってる。一からやり直して3年生の借りを返して欲しい」

 桃谷の打球がスタンドに落ちていたら。その差、ほんの1、2センチ。決勝に出られるか、そこまでか。

 数字は小さいほど、大きな結末をもたらす。

文・清水岳志