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2019.06.16 12:00
メジャーリーガーが見た世界、つなぐ世界~オリックス・バファローズ 田口壮コーチインタビュー(後編)【Global Baseball Biz vol.11】
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前回に引き続き、オリックス・バファローズ一軍野手総合兼打撃コーチを務める田口壮さんのインタビューをご紹介したい。メジャーへの挑戦で経験した苦労や、二度のワールドチャンピオン、そして現在指導者として大切にしていることとは。
(取材日は2019年6月上旬)
■指導する上で伝えたいこと、大切にしていること
2016年から2018年までの3シーズンを二軍監督として若手選手を率い、2019年からは一軍野手総合兼打撃コーチを務めている田口コーチ。普段指導する上でどのようなことを心がけているのだろうか。
田口「基本的には、選手にはやりたいようにやらせてあげたいと思っています。そうしないと、悔いが残るんですよね。間違っていることやおかしいことには意見や指導をしますが、なるべくその選手の思い通りの野球人生を歩ませてあげたいと思っています。(成功するにしても)失敗するにしても、彼らが後悔しないようにしてあげたいですよね」
選手に対して良い意味で放任でいたい、という。もしかしてそれはご自身の経験からのことでしょうか? と聞くと、笑いながら「そのとおりですよ!」と答えてくれた。
田口「学生時代はあまり強くない野球部にいて、ほぼ独学で野球をやっていて、ヒントだけもらって自分で考える野球をしてきたんです。でもプロに入って、キャンプ初日から事細かに指導をされて、自分の頭がついていかなくなりました」
田口「それまで教えられたことがなかったので、指導をされると『プロが言うんだからそうなんだ』と思ってしまったんです。僕が思ってきたことは違ったんだなという理解になってしまって。でも『いや、僕の感覚はこれであってたんだけど……』なんて思いながら、自分の体の感覚を全部変えてしまったんです。最終的には戻すことができたんですけどね」
本当の自分に戻るきっかけとなったのは、故・仰木彬氏との出会いだったそうだ。
田口「仰木監督と出会えた、そのタイミングですね。(内野から)外野にコンバートされて、そこから自信をつけたというところと、やらないとプロの世界からは弾かれるという思いがあったので。ずっと頑張ろうと思ってましたけど、外野にいったことで『これがラストチャンスだな』と」
そこからの田口コーチは、本来の自分の感覚を取り戻すとともに、着実に自信を付けていった。ゴールデングラブ賞やベストナインに選出され、日本代表にも選出されてオリンピックにも出場。さらにはメジャーで二度もワールドチャンピオンになるという快挙も達成したのだった。
■野球を嫌いになった過去
――20年以上野球に携わられていますが、今までに野球を嫌いになったことはありますか
田口「あります。プロ入ってすぐ嫌いになりましたよ。イップスになって突発性難聴にかかったときは、本当にグラウンドに行くのが嫌になりましたよ」
――逃げたくなったり、ちょっと楽になりたいという気持ちにはなりませんでしたか
田口「ずっとなってました。毎日のように『あ~今日グラウンド行きたくないなぁ~』ってなってましたよ(笑)イップスのときは一日何球投げるんだというくらい投げてましたからね。何百球かな。ゴロを捕ってから投げるわけですから、ゴロを捕る数も半端じゃないですよね」
田口「たぶん、根本的には野球のこと好きなんだと思うんですよ。野球が嫌いになったとはいいますけど、それはその時の自分が嫌いなだけで。”野球をうまくやれない自分が”嫌いということなんですよ。
うまくいかないし何をやっても光が見えない自分のことが嫌いなだけで、野球自体が嫌いなんじゃなかったんだと思います。でもそういう状況にいる時は”野球が嫌い”っていう思いに置き換えてしまいますし、グラウンドに行きたくないっていう気持ちも生まれてしまいますよね」
■プロもアマチュアももっと野球を楽しんで
田口「プロ野球はすごく厳しい世界ですし、戦わなくてはいけない。”仕事”という面はあるんですけど『”楽しんでいい”仕事』だと個人的には思っています。やる側が楽しむということはエンターテイメント的に大事な部分だと思うんですね。
選手本人が楽しんでいないとお客さんのことを楽しませることは出来ないと僕は思っているので、選手たちがいかに自分を表現しながら楽しむかということがすごく大事だと思っています」
また、田口コーチのお子さんも野球をやっているということで、学生野球などについてこう続けた。
田口「アマチュアに関しても、野球が嫌いになって野球を辞めてほしくないと思っています。縁がなくてだったり、何かきっかけがあったり、心が折れたりで野球を辞めることがあるでしょう。でも”野球が嫌いになった”という理由で辞めてほしくないですね」
イップスもワールドチャンピオンも経験した日本人野手というのは、今のところ田口コーチくらいしかいないだろう。一度は嫌いになったとまでいう野球に、現在に至るまで20年以上携わり続けている。選手として今まで見てきた世界を、指導者としてこれからどう繋ぐのか。今後の活躍が楽しみである。
写真・文:戸嶋ルミ
取材協力:オリックス・バファローズ