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2019.05.25 19:49
「ずっと投球術と駆け引きを研究してきた」磯崎 由加里投手が女子プロ野球屈指の技巧派右腕になるまで【野球女子 vol.3】
女子プロ野球を代表する好投手として注目される磯崎 由加里投手。尚美学園大学時代から日本代表入りするなど、国際大会で活躍。
第5回IBAF女子野球ワールドカップでは、大会MVP・最優秀投手に輝き、2015年に女子プロ野球界入りすると、ここまで在籍5年間で通算31勝、今シーズンは通算100奪三振を達成した。そんな磯崎投手の歩みを振り返っていく。
■投手は特別なポジションだと感じていた
磯崎投手が野球を始めたのはなんと3歳から。父が草野球でプレーしていて、その姿を4歳上の兄と一緒に見ていたことが大きなきっかけとなった。小学1年時に山口県宇部市の小羽山クラブに入団すると、小学1年生の終わりに投手人生が始まる。投手を始めたきっかけは磯崎選手の野球に対する取り組み、熱意が指導者から認められてのものだった。
「他の子が体調不良などで休むことがある中、自分は休まずにずっと行っていたので、監督が『どこ守りたい?』と訊いてくれたことです。そこでパッとグラウンドを見た時、マウンドが自分の中で輝いて見えて、特別感のある場所だなと思って」
投球フォームについては父やクラブの指導者に念入りに教わり、当時はかなり細かいと感じていた。だが、中学、高校、大学、プロになっても、投球フォームを矯正されたことはなく、「今、思えば当時の指導は大きかったと思います」と感謝する。
そして桃山中に進んでも投手を続け、男子が混じる中でも背番号1、10をつけて公式戦のマウンドに登った。そして中学を卒業した磯崎選手は、埼玉栄高校へ進学する。
進学理由として、「埼玉栄の試合を見ていてほかの女子の硬式野球部よりも強く、また『ヴィーナスリーグ』という関東圏内の高校の女子硬式野球部、クラブチームが集まった交流戦があって、埼玉栄からは3チームで出場するので、1年生から試合に出場できるかなと思い進学しました」
埼玉栄では、上下関係や練習量の多さに驚くことはあったが、同級生にも恵まれ、最後までやり通した。
「同級生とは絆が強くて、みんな仲が良くて、向上心しかないような人たちばかりだったんです。みんな本当に上手くて、自分ももっと練習しないとダメだなという刺激をもらいながらやっていけたので、山口を出てきて良かったと思っていました」
そして尚美学園大学では西武、日本ハムで投手として活躍した新谷博監督のもとで、投手としてのイロハを学んだ。
「高校まではただ投げて打ち取って楽しいという感覚でしたが、新谷監督からは投手としての駆け引きを学び、考え方も変わってきました」
駆け引きをしながら打者を打ち取る。大学生となった磯崎投手は、さらに深く野球を楽しむことができていた。それが今の取り組む姿勢の原点となっている。
そして日本代表入りしてからも、代表スタッフとなっていた新谷監督から指導を受けてきた。ここで現在の決め球のカーブの完成度を高め、ワールドカップでも活躍を見せ、MVPを獲得する。
■肘のケガを乗り越え、2017年に最多勝、最多勝率!
国際大会の活躍でプレーヤーとして自信を深めた磯崎選手は、2015年に女子プロ野球に挑戦。しかし1年目は女子プロ野球のレベルの高さを痛感した。
磯崎選手の球速は女子プロ野球選手の中でも決して速い方ではなく、110キロ台。どうすれば勝負できるのか。それを常に考え、誰にもないカーブを投げようと考えてきた。球速が遅く、打者の手元で大きく落ちるカーブを使ったり、速くしたり、一球一球、変化を変えてきた。さらに縦横のスライダー、シンカーを習得し、技巧派投手として生きる道を選ぶ。
最も輝きを見せたのは2017年。11勝2敗、防御率2.98で最多勝利、最高勝率、ベストナインを受賞した。2016年シーズンの途中、肘のケガで離脱したが、手術を乗り越えて臨んだシーズンで最高の結果を残した。
「手術した翌年に結果を出すのは難しいと言われていたのですが、手術前にいろんな先生からいろんな言葉をいただいて、自分にとって良いチャンスだと思えるようになって、すべてがうまくいったシーズンだったと思います」
そして今シーズン、通算100奪三振を達成した。自分自身、打たせて取る投手だと自覚しているだけに喜びはひとしおだった。
「元々三振を取るピッチャーではないので、こういうふうに記念すべき100奪三振が獲れるとは考えていませんでした。ですから獲れたというのはすごく嬉しいですし、一番嬉しかったのが、100奪三振目のボールが変に真っ直ぐとかじゃなくて、自分の一番の武器であるカーブで取れたことです。自分の中でもすごく印象に残る三振でした」
現在はコーチを兼任しながらプレーする磯崎選手。教える難しさを感じながらも、自分が好投して、後輩たちに背中で示せればと考えている。
最後に今後の目標を伺った。
「2017年に残した11勝以上、そしてまだ防御率1点台を達成したことがないので、それを目指してやっていきたいです」
女子プロ野球界を代表する技巧派右腕はこれからも研鑽を重ね、チームのために勝ち星を積み重ねる。