BASEBALL GATE

侍ジャパン

WBCで盛り上がっているのはどこの国? 選手、記者、ファンの声からWBCに向けた熱気を独自にリサーチ 記事提供=Baseball Crix

(C)共同通信

 日本では、かなりのボリュームで伝えられているWBC関連ニュース。日本代表の、3度の大会で2度の優勝、1度のベスト4という輝かしい実績を考えれば、その手厚い報道も当然なのかもしれない。 
 では、世界規模で見たときはどうなのだろうか。かつては五輪やサッカーワールドカップに比べると、まだまだ注目度に欠けるとの見方も多かったが、大会を重ねるなかで、世界のファンの間での認知は進んでいるのだろうか。各国のさまざまな声を集め、状況を探ってみた。

ステータス獲得にはまだ時間がかかりそうなアメリカ

 WBCの開幕が迫っているが、4回目を迎えても野球の母国アメリカにおける盛り上がりの声はほとんど聞こえてこない。先日発表されたアメリカの28名のロスターには、ジャンカルロ・スタントン(マーリンズ)やバスター・ポージー(ジャイアンツ)といったスターの選手は入ってはいるものの、投手陣にはリーグを代表するような選手は不在。このあたりも、同国ファンの気持ちをいまひとつ高揚させない要因となっているだろう。

 アメリカは過去3大会で決勝ラウンドに進出したのが第2回大会(2009年)のみ(準決勝で日本と対戦し敗戦)で、このことが同国での盛り上がりの欠如を呼び込んでいる大きな要因だと思われるが、1度でも優勝ないし決勝進出でもすればファンの目を引きつけるのではないか。

「大会は2006年にはじまって、アメリカではまだ“絶対に見なければならない”というステータスを獲得していない」—―『Kansas City Star』紙で、ピート・グラソフ記者はそう記しているが、それが妥当な見方なのかもしれない。

 しかし、だからといって、大会全体の熱量が低いかと言えばそんなこともない。日本以外でも、この大会にかける思いを強くする国々は増えてきているのが実際のところだと言えよう。

 過去の3大会を振り返ると、まず第1回大会(2006年)、第2回大会は日本と韓国のためにあるような大会だった。このアジアのライバルである2国の激しい、ジリジリするようなぶつかり合いがこの2大会のハイライトとしてファンの記憶に残っている。

 だが、第3回大会(2013年)では日本が初めて決勝戦進出を逃し、ドミニカ共和国とプエルトリコというラテンアメリカの2国が優勝を争った末、ドミニカが王座戴冠した。WBCはアジアだけの局地的なものではなく野球の盛んなラテン各国も広く巻きこんだよりグローバルな大会へと姿を変えはじめたのだ。その意味では前回大会はWBCのターニングポイントだった。

準備の周到さからも伝わってくるラテンアメリカ各国の熱気

(C)共同通信

『ESPN』スペイン語版のホルヘ・モレホン記者は、日本がキューバや韓国と決勝を戦った最初の2大会よりも、メジャーリーガーを多く擁しアメリカから距離的にも近いドミニカやプエルトリコといったラテンの国々が優勝を争った前回大会のほうが大会の盛り上がりや収益面でより意義があった、といった主旨の記事を書いている。

 日本側からすると悔しいところもあるが、より多くの国でこの大会が盛り上がるようになったことは喜ぶべきことだ。

 いま、一番WBCを心待ちにしているのはあるいはラテンの参加国かもしれない。心を踊らせているのはファンやメディアだけではない。メジャーリーグのスターを多数抱える代表チームも、監督とGMにメジャーリーグの元スター選手を据えるなどバックアップ体制を整え本気で勝ちにきている。

 発表された各国の28名のロスターを見ても、真剣度の高さがわかる。ドミニカ共和国は前回大会MVPのロビンソン・カノ(マリナーズ)や昨季18勝の右腕ジョニー・クエト(ジャイアンツ)などそうそうたるメンバーが集結しているからだ。

 ベネズエラもまた、元三冠王のミゲール・カブレラ(タイガース)やホセ・アルトゥーベ(アストロズ)、2010年アメリカンリーグサイ・ヤング賞のフェリックス・ヘルナンデス(マリナーズ)などメジャーの一流選手が揃う。前回準優勝のプエルトリコやメキシコも同様だ。

 例年ならばWBCの時期はまだ春のキャンプ中でコンディションが整わない段階だが、準備状況なども変わってきている。ベネズエラなどは代表選手がマイアミでミニキャンプを張っており、遊びでこの大会に臨むのではないとわかる。

 メジャー最高の打者のひとりとされ、年俸は約30億円。WBCは今回で4大会連続の出場となるカブレラは、母国の『EL UNVERSAL』紙の取材に「これまでわれわれは思うような結果を出せずそれを恥じている」と過去を振り返りつつ、今回は「自分たちのエゴを捨て、ベネズエラのために戦う」と大会へかける思いを語っている。

1次ラウンドのチケットが飛ぶように売れたメキシコ

 メキシコの野球サイト『PURO BEISBOL』などで記者やレポーターを務めるハビエル・セダーノ氏は、「間違いなく同国代表やWBCへの期待感は以前と比べても高まっている」と話す。メキシコは今回のWBCでは4つの1次ラウンドの開催地のひとつとなっているが、セダーノ氏によればチケットは発売直後に即座に完売してしまったという。

 ベネズエラ出身で現在はカナダのトロント在住、日本のプロ野球をスペイン語で発信するウェブサイト『BEISBOL JAPONS.COM』を運営するクラウディオ・ロドリゲス氏は、ベネズエラを含めた野球の盛んなラテン各国のWBCへ向けての盛り上がりについて話してくれた。

「カリブの国々の野球への情熱、それはすごいもの。三軍的な代表しか招集できなかった(2015年の)『プレミア12』とは違って、メジャーリーグ主催のWBCではメジャーの選手を集めることができる、本当の意味での野球の最高峰の大会でサッカーのワールドカップのようなもの。ドリームチームが見られる場所なのです」

やや落ち着いた印象の韓国、台湾 キューバでは代表への見方に変化も?

(C)共同通信

 アジアに目を戻せば、本来、日本同様に野球熱の高い韓国や台湾はやや盛り上がりに欠けている様相だ。韓国は前回大会で、第1ラウンドで敗退してしまったことや日本と同様にメジャーリーガーがほとんど参戦しない状況のためか、自国代表への期待度は高まっていない感がある。

 台湾は国内のプロ野球機構と台湾野球連盟の主導権争いからベストとは程遠いチーム編成で臨まねばならず、ファンの目は悲観的だ。また第1回大会で日本と決勝戦を争ったキューバも、近年の歯止めの効かない選手の亡命(=メジャーリーグ行き)で戦力が落ちており、厳しい戦いになるだろうと現実的な見方をしているようだ。

 ただそういった事情があるにせよ、韓国や台湾、キューバも大会がはじまればやはりそれぞれの国での大きな関心事となることは間違いない。キューバの『ESCAMBRAY』紙に勤務し野球に造詣の深いマーリス・ロドリゲス・フランシスコ氏は、同国代表が「もはや以前とは違うもの」であり「期待値は高くはない」とはしながらも、「それでもWBCがはじまるのを待ちわびている」とした。

 いずれにしても、WBCが盛り上がっていないと言い切るのは拙速だ。上記のようにとりわけラテンの国々ではかなりこの大会に対して注目度が高まってきている。ドミニカ共和国やベネズエラのメディアは、日本と同じように連日代表チームの動向を報じているし、ファンの興奮度合いもツイッターなどから伝わってくる。

「WBCを日本対ラテンアメリカで7試合制のシリーズにしたらいいのではないか」

 とあるカナダ在住のスポーツファンのツイートを発見した。もちろん冗談のつぶやきだが、しかしある意味現在のWBCの盛り上がりをどの国々が牽引しているかを見ると、確かにこんなことも言いたくもなるのかもしれない。

 間もなくはじまるWBCでは、侍ジャパンだけではなく広く他国の盛り上がりや報道ぶりにも目を向けてみるのも一興ではないだろうか。

取材・文/永塚和志

(著者プロフィール)
永塚和志
英字紙『ジャパンタイムズ』記者として国内プロ野球、バスケットボール、アメリカンフットボール、陸上競技などを担当。ワールドベースボールクラシック(WBC)やサッカーW杯、NFLスーパーボウル等、海外のスポーツイベントの取材経験も豊富。

(記事提供)
Baseball Crix
URL: https://bbcrix.com/