BASEBALL GATE

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報徳・小園海斗
振り逃げが流れを変えた

【写真提供=共同通信社】報徳学園―愛工大名電  報徳学園―愛工大名電 3回裏報徳学園2死、打者村田のとき、小園が二盗。遊撃手堀内=甲子園

今年の大会で注目され、ドラフトで上位指名間違いなしと言われているのが、〝ビッグ3〟の大阪桐蔭の根尾昂、藤原恭大と報徳学園の小園海斗だ。
 藤原と小園は2年生だった去年、U―18侍ジャパンに選ばれてカナダでのワールドカップに出場した。小園はショートのレギュラーでチームの最多安打を記録した。

 小園の最大の武器はその俊足ぶり。50メートル5秒8はもちろん、プロの盗塁王を獲るような選手と遜色ない。
 桐蔭の藤原がゼブラのようにパワーで押していく走りなら、小園はインパラのように飛び跳ねて走る、とでも言おうか。ベルトの位置の上下動がなく、上半身が安定している。
 守りは、守備位置は甲子園でいえば、芝生に足がかかる辺りで待ち構える。カバーできる範囲が広いという自信の表われで、三遊間は強肩でカバーし、二塁ベースよりと前のゴロは脚力で突っ込んでくる。
「1打席目のショートゴロを取られたときも、ギリギリのタイミングでアウトかなと思いましたが、余裕のアウトだった」と名電の堀内祐我は守備力の高さに驚いたと言う。
 パワーがついたと言われるのが打撃だ。東兵庫大会は7安打中、5本が長打。滝川二戦では勝ち越し2ランを放った。
「細いと言われたんで、コーチと話してご飯をたくさん食べるようにしました。茶碗に2杯だったのを3杯か4杯。辛いんですが無理して食べるようにしました」と本人は笑う。

 初戦の聖光学院戦、大会タイ記録なる3本のツーベースをレフト線、右中間、左中間と打ち分けた。空いているところを狙い撃ちしているようにも見えた。そこから2番の村田琉晟がバントで送って、3番、長尾亮弥が犠飛や安打で3打点を挙げて3対2で勝った。得点パターンが確立している。
大角監督が言う
「報徳の野球として負けない野球を継承していきたい。それは守り、走塁ですね。確率が高い野球と言うことです」
 小園が塁に出て確実に塁を進めて、必ずホームに返す。確率の高い野球で得点を重ねる、と。小園の存在そのものが今年の報徳の野球なのだ。

 この日の愛工大名電戦。名電はどんな対策をしてきたのか。名電バッテリーはまず、1打席目と2打席目で三振を奪う。
名電先発・室田祥吾投手が振り返る。
「ヒット覚悟だったので小園君から2三振は出来過ぎです。振らせようと思ったボールです。低めのワンバウンドの決め球は意識的に投げました。三振に取れて自信になった、自慢にもなりますね」
キャッチャーの粟田千宙も納得した攻めができたと言う。
「ボール球を振ってくれた。低めと高めを織り交ぜて攻めることができた。室田もいい球を投げてくれた」

 1打席目、4球ともスライダーで攻めて最後は123キロで空振りの三振。2打席目の6球はストレートとスライダーが3球づつ。最後は124キロのスライダーで空振り三振だった。
ここまでは名電の作戦通り。しかし投球はワンバウンドしてキャッチャーが後逸する間(記録はワイルピッチ)に振り逃げで出塁した。
 室田が続ける。
「2打席目の振り逃げは痛かった。ベースの前にバウンドしてしまった。キャッチャーは悪くないですが、抑えたのにアーっと思い、気持ちを引きずってしまった」

 小園の出塁で球場の空気が一変する。
名電のベンチから見ていた佐藤慶志朗二塁手が証言する。
「あの人が出塁したら何か起こりそうな予感はありました。小園さんの振り逃げで流れは変わったと思います」

 2番の村田の5球目で盗塁成功。村田がレフト前ヒットで続く。ここは「レフトの守備位置を見ていたし、肩の強いのもわかっていたので」(小園)三塁で自重する。だが、3番の長尾の初球に名電バッテリーにワイルドピッチが出て、小園がホームインして1対1になった。

 こうなると、この日の報徳の得点確率が上がった。動揺した室田が3連続四死球の押し出しで逆転。6番の堀尾浩誠が三遊間を破って一挙4点。流れが変わった。

 小園の4回の3打席目はスライダーを打ち上げてショートフライ。4打席目はスライダーとフォークを空振りし、カウント2―2から今度はインコースのストレートを振って三振した。
リキんでいて何でもかんでも振っていたように見えた。本人によると、「3三振は高校では初めて、屈辱的です。4回ぐらいから軽い熱中症のようになって、ボーッとなって集中力がなかった。タイミングが合わず、三振してしまった」と言う。
 やっと第5打席はお約束のショートへの内野安打。ゴロを捕った名電・堀内祐我遊撃手は「捕った瞬間はいける、と思ったが、足が速くて間に合いませんでした」と舌を巻いていた。

 報徳は5回にも3本の長短打を集めて3点を追加。7対2で勝利を収めた。
「自分はダメだったけど、チームが繋いでくれた。準々決勝は睡眠をとって、水分を補給して備えたい」
 ベスト4をかけて済美戦での躍動を誓った。

文・清水岳志