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高校野球

新たな両チームのスタート 5年後の浦和学院✖️仙台育英

【写真提供=共同通信社】浦和学院―仙台育英  仙台育英に勝利し、応援席へ駆けだす浦和学院ナイン=甲子園


11―10。
仙台育英対浦和学院の5年前の対戦スコアだ。

 2013年の95回大会の1回戦。この二校が100回大会の2回戦でぶつかった。
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 浦和学院はその年のセンバツに優勝していた。土佐、北照、敦賀気比などを破った。特に決勝は済美相手に17対1というように5試合中、二桁得点が3試合あって合計46得点。チームの失点も3点だけという完璧な内容で優勝した。
高田涼太(元立大)、竹村春樹(元明大)など東京六大学で活躍する好選手が多く揃った。2年生エースの小島和哉(現早大4年)は埼玉県大会で完全試合を記錄するなど好調を維持。春夏連覇を狙っていた。

一方の仙台育英にも熊谷敬宥(立大から現阪神)内野手、上林誠知(ソフトバンク4位指名)外野手、馬場皐輔(現阪神)投手とのちにプロに入団する強力なメンバー。

 屈指の好カードは序盤から壮絶な打ち合いになった。浦和が1回に先制するとその裏、仙台が小島の5四死球の不調に乗じて6点。すると3回表に4本の二塁打などで浦和が8点を取って大逆転した。仙台は6回に4点を挙げ10対10と追いついた。決着は9回裏に熊谷のヒットで仙台のサヨナラ勝ち。2時間59分のナイトゲームだった。
 小島は8回、無死満塁から3者三振で切り抜けるが、9回途中、力尽きてマウンドを降りる。8回3分の2を被安打9、与四死球9。自責点8を献上した。
 その敗戦から5年経って今回の再戦。浦和の森士監督は「逆転負けしたゲームのリベンジできるチャンスもらった」と因縁を感じたと言う。
森監督が続ける。
「今回、大阪に来て、練習の行き帰りのバスの中でビデをみました。私もあれ以来、初めて見た。初回の入りの部分とか、ノーガードの打ち合いとか、あれから5年間やって来たことの象徴がこのゲームだと、イメージが伝わるといいなと思って。今年の子には関係ないんだけど、自分たらの3年間はここにある、と」
 新生・浦学のゲームになる。

 一方の仙台育英にとっても新たな船出だった。
 昨年12月に不祥事が発覚し、佐々木順一朗監督が辞任。系列の秀光中等教育学校の須江航監督が就任した。
「チームを四つに分けて部内リーグ戦をやって選手を選抜しました。また、ファーストストライクと失点率の組み合わせとか、アナライズもやって来た」
 そして大きな特徴がキャッチャーの3人制だ。
「うちのキャッチャーは3人とも能力がある。一芸を持ってます。足りないところを補い合ってる。流れを作る一番手、対応できる二番手、経験豊富で冷静な三番手と適材適所で使い分ける。タイミングは代打を出す、ピッチャーを代えるのと一緒。持ち味、間合い、テンポを考えて代えるタイミングは試合の中の展開次第」
 須江監督のチーム作りの根本はこうだ。
「佐々木先生が指導された選手の主体性、自主性は引き継ぐ。私は献身的な部分を加えていきたい。カバーリングやバックアップです。そしてベースは駆け抜けるものというような、決めたことを遣り抜くという部分。99はゼロなんです」

 両チームの再出発の日、果たして結果は。
 浦和学院の9対0の完勝だった。初回に佐野涼弥のツーベースで2点、3回は2本の長打と暴投で2点。8、9回には3番の蛭間拓哉主将のホームランなどで5点。
 投げてはプロ注目右腕の渡辺勇太朗が149キロを計測するなど6イニングを投げる。そこから「渡辺含め4人のリレーで南埼玉大会も勝ち上がって来た」(森)と左の永島竜弥ら3人を繋いで完封した。

繋いだリリーフ陣が言う。まず、3年の河北将太投手。
「投手陣みんなで0点にこだわってやってきている。完封リレーはうれしい」
2年の永島投手。
「チーム全体で5年前のビデオを見た。監督があの時は小島さんに頼りきりだったと話してくれた」
投手陣をリードする畑敦巳捕手。
「甲子園でも継投でいくと思います。それぞれがベンチ入り6人分の思いを背負って投げるんだという自覚があります」

 森監督はは5年前の苦い経験から得たものを今日、晴らして新しい形で勝つことを示したかったに違いない。
「5年前は下級生に182球も投げさせた。ボクシングでタオルを投げたように降板させてかわいそうだった。あんなことにならないようなチーム作りをして来た。小島の経験したことは成果があったよ、と」
さらに上を見据えた。
「リベンジはできた。でも夏はなかなか勝ち上がれないので、勝負はここから」

 森監督の大事にしていることは温故知新だと言う。
「反省をして新しいことにチャレンジする」
 その第一歩は記せた。
 そして須江監督。
「献身的にやることの価値を知ってほしい。今日は半年間、積み上げてきた自分を褒めていい」

 両チームの次の直接対決が待ち遠しい。

(文・清水岳志)