- 小中学野球
2018.07.26 09:10
女子野球を当たり前のものに 神奈川やまゆりクラブが変える固定概念
★野球の新たな魅力に気づく
「日本の野球を変えるパワーが女子野球にはあると思います」
そう語るのは、女子中学軟式野球のクラブチーム・神奈川アイリスと神奈川選抜チーム・神奈川やまゆりクラブで指揮を執る新庄広監督(横浜市教育委員会)だ。
年々部員数が減少している中学軟式野球人口だが、女子は(2014年104名→2017年148名)と神奈川県で増加しているデータがある。一方で、男子部員の中で混じってプレーすることは「着替え場所の問題などは些細なこと」と、ある選手の親が語るほど多くの困難がある。小学生までは活躍できても中学になると段々と実力差が出始めたり、異性に対する意識も変わってくるため馴染めない選手も中にはいる。

3年生12人(一部欠席)と指導陣。明るく野球をする文化が根付いている
そんな状況の中で結成されたのが女子だけの軟式野球クラブだ。神奈川では横浜女子クラブ(2012年結成)と神奈川アイリス(2016年結成)があり、月2回程度集まって練習をしている(それ以外は各校の部活動で練習)。その中の3年生12人が神奈川やまゆりクブとして第3回全日本中学生女子軟式野球大会(7月27日〜8月1日/京都府)に臨む。
女子だけのチームには様々なメリットがある。神奈川やまゆりクラブの代表を務める坂脇寛人氏(神奈川県中体連軟式野球専門部 部長/青葉台中監督)は向上心だけでなく、苦労や愚痴を共有する場としても大きな効果があると話す。
「始まった当初は女子会じゃないですけど、同じ境遇の選手たちが会って話して、“上手くなって、また会おう”という元気の源になるような存在でした」
また、斎藤千夏選手も「同性しかいないのが嬉しいです。同性だからこそ気づいたり、気持ちを汲み取ることができます」と笑う。
さらに、中心選手としてプレーできることも野球の楽しみをさらに増幅させると新庄監督は力を込める。
「野球って打順があって、どうしても大人(指導者)に早い段階でランク付けされてしまうところがありますよね。でも、ここでは全選手を試合に出すし、複数のポジションを経験し、(チームに欠かせない)中心選手として出ることができる。“自分がやらなきゃ”という気持ちになることで、彼女たちが気づけていなかった野球の魅力を知ることができるんです」
グラウンドを駆け回る彼女たちは意欲的で声もよく出る。守備の基本などもできており、この日は練習試合の相手となった男子中学生(1、2年)に9対1と完勝した。

生麦中時代に全国準優勝へ導いた経験もある新庄監督。テヘラン日本人学校での指導やメンタルトレーニングの学習などを経て柔軟な発想を持ち合わせている
★次世代を変えていく
指揮を執る新庄監督が指導で大切にしているのは「言葉」だという。日本のスポーツ指導というと、どうしても 「何やってんだ」「馬鹿野郎」という言葉を連想してしまう人は多いかしれないが、それを一切廃している。新庄監督の言葉遣いはとても柔らかく、丁寧という言葉が当てはまる。
「昔から指導の言葉って、悪い言葉で結果を責めるような言葉が多い。それを子供の励みになるようなプラスの声に、結果を経て次に繋がるような声に。クラブ全体がそうしたプラスの言葉であふれるようになったら、チームワークも良くなって結果も出てきます」
唯一口調を強めて伝えるのは「自分たちのベンチではなく、相手を見て野球をする」ということ。監督の顔色をうかがって野球をしないようにという思いからだ。
「指導者、教育者として、その言葉が子供を変えて、次世代を変えていく。だからこそ我々の言動が子供たちを前向きにさせるものでなくてはいけません。今はこの立場で女子に教えていますが、それはいかなる場所でも伝えていきたいです」
“次世代”というのが、野球の普及を考える上で、また女子野球の今後を考える上でも大きなキーワードになる。坂脇代表は「この子たちがお母さんになった時に、子どもと一緒にキャッチボールをしてくれるように」と願いを込める。
また斎藤選手は「(女子が)ユニフォーム着ていると、電車とかで二度見三度見されることはよくあります。(女子が野球をすることに)まだ理解されないところがあるので、もっと野球をやる女子の人数が増えてメジャーになってくれたらいいなって思います」と話す。
そして、新庄監督は一連の活動が「野球は男子がするもの、女子はソフトボールをやるか、応援やマネージャーとして支えるという概念を変えられるパワーを持っています」と話す。
野球界に、さらに活気をもたらすことのできるヒントの数々は、草の根の固定概念を変える活動にこそ、あふれていた。

のびのびとした雰囲気ともに基本のできた動きで躍動する選手たち
文・写真=高木遊