- 高校野球
2018.03.25 21:34
劇的逆転サヨナラ弾にあった勝負の分かれ目とは (「選抜第3日」 明徳義塾―中央学院 )
9回裏2死。最後の最後に、役者に舞台は回ってくるものだろうか。
明徳義塾の馬淵史郎監督が「野球は怖いねぇ・・・」とため息を漏らすように言ったゲーム。今回のセンバツでもスラッガーの一人としてあげられる4番バッターを巡って思惑が交錯した。
昨秋の関東大会と四国大会を制した中央学院と明徳義塾。明治神宮大会の初戦に当たって、明徳はそのまま優勝して秋の全国を制した。両校がセンバツの1回戦で当たった実力校の対戦は一転、二転、期待通りの好ゲームになった。
初回、明徳が中央学院のエース、大谷拓海を捉える。四球、野選、犠打の1死2、3塁から内野ゴロでまず1点。そこから連打で3点を先制する。
このゲーム、注目は両エースの投げ合いにもあった。中央学院の大谷は最速145キロを誇る本格派右腕。
さらに4番を打つ二刀流としてメディアは取り上げている(この日は投手で1番)。
片や市川悠太は1年の秋から明徳の主戦でサイドハンドから145キロのストレートを投げ、神宮大会を勝ち上がった。共に今大会一、二を争う速球派なのだ。
付け加えれば、大谷は神宮大会で負けはしたが、市川から左中間に2ランを放っている。お互いにライバル意識を持っての対決だったと言っていい。
ところが、市川対大谷という話は4番バッターが一振りで吹き飛ばした。
3点のリードをしてもらった市川は大谷に初回だけ、安打を許したが隙を見せず、明徳の馬淵監督も「勝ったと思った」と言うほど、7回まで好調だった。
ところが8回、1死から突如崩れる。3連続四死球を与え満塁。そこまで変化球に全くタイミングが会わず3三振の四番、高鹿隼人がレフト前に同点打。1四球を挟んで7番、西村陸のセンター前ヒットでゲームをひっくり返した。
しかし野球はここから。「粘りがうちの野球の信条」(馬淵監督)と明徳もその裏、併殺で好機を逸したかに見えたが、そこから3連打で1点差。決着は9回に。
馬淵監督は「ランナーが二人出ればクリーンアップに打順が回る。チャンスはあると思った」という。そして9回の攻撃に入る時に「こういう試合を逆転できれば、お前らは優勝あらそいのできるチームになる」と檄を飛ばした。
2死になったが、安打と死球でチャンスが広がって四番、谷合悠斗。
1年夏から谷合は明徳の主軸を任されてきた。準決勝の作新戦、五番ライトで先発したが、失策をするなど途中交替。チームも敗れる。昨年春にも早実でホームランを放ったが、味方のエラーで逆転され初戦敗退。夏の前橋育英戦も2三振を喫して貢献出来ず2回戦で散った。甲子園では歯がゆい記憶しかない。
付け加えるならば、神宮大会での直接対決でも大谷相手に3打数ノーヒット、2三振を喫していた。
この試合でも、変化球を引っ掛けるなど4打席ノーヒット。初回は1死2、3塁でサードゴロ。8回は無死1塁から併殺で完全にブレーキだった。
「怖い谷合の目を覚ましてはいけないので」と思ったのは中央学院の相馬幸樹監督だ。谷合の初回と8回、両方の打順の時にマウンドに伝令を出して功を奏していた。
それでも揺るがなかったのは馬淵監督の谷合への信頼だ。「最近のオープン戦で11試合で5ホームランをしていて調子がよかった。ずっと4番に置いておくのは打球の質が違う。格が違うんよ」。
こうした土壇場で中央学院ベンチとバッテリーの間では冷静さに誤差が生じた。
「監督からタイミングが合っていないので、スライダー勝負のサインがありました。スライダーを引っ掛けていましたが、大谷はストレートを磨いてきたピッチャー。ここはストレート勝負を選びました」
主将でキャッチャーの池田翔はゲーム後、しばし沈黙してからそう、言葉を絞り出した。
既に3回の伝令の機会を使い果たし、この場面で伝令を出せなかったことも影響したか。
カウント1ー1からの3球目、高めに浮いたストレートをとらえた谷合の打球はバックスクリーンに飛びこむ逆転サヨナラ3ランとなった。
「ストレートが甘く入ってしまった。一球で勝負が決まるんだな・・・」と大谷は落胆した。
谷合は「前の打席まで抑えられていたが、諦めない気持ちで打ちました」と言った。
馬淵監督は瞬間、「ベンチから出て飛び上がっとった。何かやってくれる予感はあったが、あそこで打つのが偉い。失投を逃さなかった」。
実は、ジャンケンで勝ったら先攻を取る予定だったという。「でも、負けてしまって向こうが先攻をとったんよ。結果的に後攻が良かったんよ」と苦笑いするから勝負はわからない。
「うちらしいゲーム。これまで落とした勝ちも拾った勝ちもある。これでバイオリズムが上がるかも。怖いものはない? 命拾いして人ほど、命を大切にしようと思うから(笑)」
野球は怖いと繰り返したが、甲子園通算50勝という節目の勝利に、最後はいつもの陽気な馬淵節が響いた。 (文・清水岳志)