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プロ野球

ホームランがつくる開発途上国との架け橋吉田正尚選手の子ども支援(グランド外の選手たちの活躍にも注目!ぼくたちのプラス」)

 2020年12月、オリックス・バファローズの吉田正尚選手が認定NPO法人「国境なき子どもたち(KnK)」への寄付を発表した。KnKは、アジアの国々の貧しい地域や路上で生活する子どもたちが学校教育や職業訓練などを通じて自立できるようサポートする活動を行っている。

「入団会見の時にもお話したように、一人のプロ野球選手として、また、一人の社会人として世の中に貢献したい、そして、できれば若い時からやりたいという思いがありました。支援団体をどうしようかと考えていた時、KnKのホームページを見ていて、昔テレビで観た飢えに苦しむストリートチルドレンの姿が蘇ってきたんです。野球の力で少しでもこの子たちの力になれないか――そんな思いで、KnKを通じて支援させていただくことにしました」(吉田選手、以下同)

吉田選手はホームラン1本ごとに10万円を積み立てKnKに寄付しており、さらにオンラインでファンが支援に参加できる仕組みも取り入れている。活動初年度の2019年シーズンはキャリアハイの29本塁打を達成し290万円、それにファンが寄付した16万1100円をあわせて306万1100円を寄付した。

「ホームランに対するこだわりは自分自身すごく強いですし、ホームランというのは相手チーム以外にとっては魅力的なものだと思うので、そういう理由もあってホームランごとに寄付することにしました。寄付の目標金額は300万円に設定しているのですが、2019年はファンの方と一緒に達成できたので嬉しかったですね」

コロナ禍となった2020年シーズンはホームラン14本分の140万円、ファンの寄付4万2320円と合わせて144万2320円の寄付となったが、実はコロナ感染拡大における緊急支援として、開幕前の4月に100万円を寄付していた。そのため、2020年シーズンの寄付の総額は244万2320円となった。

「衛生環境や医療体制が日本ほど整っていない地域もあって厳しい状況だという話を聞いたので、一日でも早く支援ができればという思いでした」

アジアの国々では、コロナ禍により物資の供給が一時的に停止してしまう事態も発生し、ウイルスとの闘い以前に飢えの危機にも晒されることになったという。そんな中、KnKは吉田選手の寄付やその他の支援者たちからの寄付を活用し、フィリピンで200世帯それぞれに20kgの米を支給。ほかにも、医療崩壊が懸念されていたパキスタンでマスクや防護服などの医療物資を、バングラデシュでは消毒液など感染予防物資を届けた。

吉田選手の緊急支援に対し、KnK会長の寺田朗子氏は「フィリピンのスラム街では、このままでは飢餓で命を落としてしまうのではないかというときに食料や衛生用品を配ることができた。パキスタン山岳地帯の学校にもアルコール消毒液やマスクを供給することができたので、親が安心して子どもたちを学校に送り出すことができました。本当に大きなお力添えをいただきました」と感謝の意を述べた。

2020年シーズンはパ・リーグ首位打者のタイトルを獲得した吉田選手だが、寄付額と連動させているホームラン数については「浅村(栄斗=東北楽天ゴールデンイーグルス)さんが32本でホームラン王。倍以上の差があることを考えると、14本という数字には決して満足していません。今回は首位打者になれましたけど、やはりすべての面でトップになりたい。来季はどんな状況であっても1打席1打席を無駄にせず集中していこうと思います」

そんな吉田選手の励みになっているのが、支援先の子どもたちの写真だ。家族と暮らすことができない、行き場のない子どもたちを保護しケアしているカンボジアの施設「若者の家」で暮らす子どもたちから、KnKを通じて送られてくる。

「子どもたちが“吉田選手がんばれ”とか“ありがとう”という横断幕を作って笑顔で写っている写真を送っていただいたんですけど、僕自身しんどい時期にその写真を見て頑張ろうと思いました。まだ子どもたちと直接会ったことはなくても繋がっているんだなという気持ちになれましたし、この活動を誇りに思えます。今後も、ファンの方にとって印象に残るホームランを1本でも多く積み重ねていきたいですし、少しでも多く寄付することで、世界平和と言ったら大袈裟ですけど、みんなが幸せな暮らしができるようになればいいなと思います」

子どもたちが“吉田選手がんばれ”とか“ありがとう”という横断幕を作って笑顔で写っている写真。シーズン中の吉田選手の支えになった